小説と、人生の遊び方。 川崎・J・悠太 (旧登録名: 川崎・G・悠太)

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小説

短編小説『何が言いたいのかわからないエッセイ』

 「ある意味で、作家と作品とは裏返しの世界である。日常の反動を作品に込めてしまうものだ。あるいは、反動が生じないような生き方をしている人間であれば、その人そのものが作品に出るのだが。」と、僕はあの時言いそびれた。

 人生初の記念すべきサイン会で、望まぬ再会をしてしまった。確かそれは、僕の人生で2番目に僕の恋人になった人物であったように思う。もう会うことは無いと思っていた。よくあることだ。「何故あなたがこの作品を?」という表情をしていた。まあ、そうだろう。そして、時間切れ。頭の中で構築した長い台詞を言う機会を逃した。仕方無いから、このエッセイの序文に書いた。あの人が読むかは知らないが、誰かに読んでもらえればいい。

 アメリカン・スピリッツが日本製になって1年以上の時が経過している。多くの場合、アメリカ製のものが日本製になると歓迎されるが、タバコや楽器──特に、ロック・ミュージックで用いられるもの──は歓迎されない。それと同様、男として生まれた人間が作家だと歓迎されないジャンルに僕は参入した。ただ、これが最後で、次回作は歓迎されやすいジャンルで書くだろう。話は既に頂いている。

 実を言えば、史乃はその2番目の恋人をモデルにしている。その2番目の恋人とやらがどんな奴か知りたくば、史乃の性格を見ていただければよい。
 そして、「あの子にはこういう性格でいてほしかった」と思う人物が光。随分と安直な名前を付けたものだと、我ながら思う。しかし、安直なのは名前だけで、性格の方は自分でもよくわからないでいる。中盤以降、僕にとってはいわゆる自動筆記やチャネリングに近い感じだった。作者は僕だが、人間ではない何かだと思っていただいて差し支えない。ただ、人間界での著作権者は僕である。そして、僕が書いていないからこそ、光は僕の理想的な人物となった。


 そういえば、このエッセイは僕の作品を読んでいない人も読むかもしれないのだった。どこに掲載されるかは知らないが、そうかもしれないのだった。これから読む人のために粗筋を書くか迷ったが、面倒だからやめておく。

 それよりも、編集部が見事であった。「実はこのヒット作は男が書いたのだ」と公表するのがサイン会の現場であった。そして、サイン会の参加要項に、「動画撮影をして、それを公開しても問題無い人」とあった。サイン会は個室で一人ずつ行ったため、たくさんの驚きの表情が撮影出来た。驚き方は人それぞれだと学習した。そして、その驚く映像を使ってまた売った。見事だ。

 そういえば、驚いていない人がいた。無名時代に本名で公開していた小説を読んでいた人だった。もしかしたらあの人かもしれないと思ったとのこと。流石である。ちなみに、現在はその人と同居している。ありがたいことだ。

 
 さて、「エッセイは下手だ」と言われるか、「エッセイの方が上手い」と言われるか、それとも、何の反応も無いか。どうなるか楽しみに本エッセイは幕を閉じるとしよう。同居人は、沈黙を貫いている。

小説らしき何か『白と黒と黒と白と黒と黒と白と白』

 人間は人間である。1日に2度だけ正しい時間を刻む時計は壊れている。私の世界も似たようなもので、誰も気にしていないようなことが通り過ぎている。人生は、壊れても続く。

 群青色 水玉模様 世界はまだ、閉じている

どこかの歌詞にありそうなフレーズ。実際に、あるかもしれない。隣の人間に訊いてみてほしい。誰もいないなら、あなたとは違うあなたに。

 捨てられた人形はどうなってしまうのか。人形供養というものがこの世にはあるが、それをしてもらえなかった人形は。燃えるゴミとして捨てられていたら、燃やされる。それもまた、供養なのだろうか。供養と言えば、太陽くんは今、どうしているのだろうか。違う宇宙では、清田太陽という名前になっているだろう。出会いとは、タイミング。少し遅かっただけ。しかしまた、別の名前かもしれない。
 月の美しさは、名付けに活かされない。ルナと読んでもいいのだが、他にもあるだろうと思ってしまう。太陽は太陽なのに。

 私は私でしかない。私以外もまた、私なのかもしれない。そして、宇宙はひとつ、と言いたかったのだが、宇宙がたくさんあるということにしないと、色々と計算が合わないらしい。詳しくは、量子力学を学んでほしい。きっと、よくわからない。

 
 美濃が堅いので振り飛車よし。

恋愛小説 『暇つぶしのための遺書』 (時々書き足していく)

 大嫌いな、愛する夫へ捧ぐ。長いけど、全部読め。どうせ暇だろ?生きれる限り、生きろよ。

                    潮見レイより



 「男は妻が死ぬと何もすることが無くなる」とのことだから、私が先に死んだ時のために文章を纏めておいてやろうと思う。どうせお前は、新しい妻も持たないだろう。私の素敵な乙女たちのうちのひとりが同情して結婚しようとしてくれるだろうけど、それも断るだろう。お前はそういう奴だ。
 ジョン・レノンは、ファンを装った人間に射殺された。たぶん、元ファンだろう。私も、そうなるかもしれない。いつ死んでも別におかしくない。これからも、たくさんの乙女たちと密室に入る。いつ殺されてもおかしくない。そういうことだ。

 雑誌の連載とかで載せたものもここに載せるが、ここにあるのは編集の手が入る前のものだ。誤字脱字があってもそのままだ。あまり誤字脱字をしない方だとは思うが、何かあるかもしれない。そこに私を感じてほしい。お前なら、わかるだろ?
 
 そして、お前がKという名前で書いたものも、ここに載せておく。お前から見た私を、もう一度眺めてみてほしい。きっと、見方がいかに間違っていたかがわかるはずだ。

 間違っても、これを出版するなよ。お前のためだけに書いたんだからな。頼むぞ。まあ、お前が死んだら、どうなるかわからんだろうけどな。それはまあ、仕方無い。




 まず第一に、お前はやっぱりおかしい。なぜ、女である私に嫉妬するのか。「俺がやりたくてもやれないことを、いとも簡単にやりやがって。」などと言うのか。
 少なくとも精神的には男として生きてきたつもりなのに、自分が女であることを意識してしまった。男と女。子供を作れない、産めない身体だとしても、男と女。女の身体で行う女相手の素敵な恋愛を至高だと思っていたが、男と女の恋愛も楽しいと思ってしまった。穢れなき私の身体を汚した罪深い男。それがお前だ。
 お前は相当、私の素敵な乙女たちに恨まれている。そのことを伝えた時のお前は、笑っていた。そして、「実質BLじゃん。」などという訳のわからないことを言う、穢れを愉しむ種類の素敵な乙女たちが私を囲むようになっていった。この書き方は良くないとは思うが、お前しか読まないんだから良いだろう。
 正直、男と男の恋愛の何が楽しいのかよくわからない。お前は楽しんでたな、確か。誰だっけ、どこかのプロ野球の監督だとか、3億円を棄ててまでシアトルにまで意中の男を追いかけた男の話をしていた。ただ、お前自身が男と交わることはなかった。あの乙女たちと喋っていた時のお前は、同族たちが集まっている場で同族たちと喋っているだけだった。
 乙女たちのうちのひとりが、「Kさんを掘ってもいいですか?」と訊いてきた。「掘る」の意味がわからない私は、恥じらう乙女とよくわからない会話を繰り広げた後、了承してしまった。
 これが間違いだった。私の前では見せない顔を、あの乙女の前ではしていた。「あの恥じらいはどこに行ったのか」思うような表情でお前を攻める乙女と、それを受け止めるお前。その関係を眺めていて、とても嫌な気分になった。
 それでも、乙女を止めることはできなかった。お前もお前だ。それでお前のことを嫌いになった。しかしながら、愛してしまったものは仕方無い。離れられなかった。私の弱さを痛感した。
 まあ、お前が幸せならそれで良いか、とも思った。甘い。それでも、私が乙女たちに囲われる理由がその甘さであることはよくわかっている。しかし、お前にはもっと厳しくするべきだった。
 来世というものがあるのなら、お前みたいな奴には近付かないことにする。私がお前みたいな奴を相手するのは、この世だけだ。感謝しろ。
 地獄に行くことになれば、お前みたいなのがたくさんいるんだろうな。困ったな。口説かれるんだろうな。それでも、お前はすぐには来るなよ。鬱陶しいから。そう書くと、来そうだけどな。やめろよ。

 お前は、お前の記憶の中の私と生きろ。




 それにしても、よくゴーストライターなんてできるな。私には無理だ。私が作ったものは、私の名前で発表したい。クリエイターとしてどうかしてるんじゃないか。
 お前が書く詞、曲はよくできていた。あの乙女たちは私の声で泣いたのではない。お前が泣かせたんだ。そう思う。1人が泣けば、もう1人が泣く。連鎖するかのように。ステージで、そんな光景を眺めていた。そして、歌う私も泣きそうだった。隠せていたのだろうか。お前はわかっていただろうな。
 私が死んだ後なら、実はお前が曲を作っていたことを明かしてくれても構わない。というか、明かしてほしい。お前みたいな作家が、名を残せないまま死んでいくのはどうかと思う。ただ、お前はずっとKとして生きていくだろうから、名は残らないけどな。
 そして、私の綺麗な点だけを語っていくのだろう。まあ、素敵な乙女たちのことを考えたら、綺麗なままの私でいた方が良いだろう。汚物としての私を知るのは、お前だけでいい。
 それにしても、どうやって書いたんだ?まあ、お前は教えてくれないだろうな。いつもいつも、「君から聞いた話をもとに書いただけ。君にも書けるよ。」と言っていたが、重要な部分は教えてくれない。
 もしかしたら、自然にできるから、わざわざ言わなかっただけかもしれない。いや、お前がそんな天才なわけが無い。そうだろ?



 お前が作るメロディ、難しすぎ。練習でなんとかしたけどさ。私の歌唱力を過信してないか?
 まあ、お前は、「いや、でも、歌えてるじゃん」とか言うんだろうな。知ってる。とりあえず、他の歌手に提供する時のことも考えて、歌いやすいメロディを作れるようになっておけよ。どうせ、そういう仕事は来るだろうから。


 よくよく考えたら、お前が先に死ぬ可能性も結構あるわけだ。それならそれでいいのだが、この遺書を読ませる相手がいなくなる。それは困る。私も私で、お前が先に死んだら困る。私には素敵な乙女たちがいるからいいといえばいいのだが、それでも、汚物としての私を見せることができる相手はお前しかいない。
 私はまた、汚物としての私を内側に隠さないといけなくなる。誰にも見せずに。それだけは、嫌だ。
 
 それならば、あと何年かしたら心中でもしようか、とも思うが、お前は嫌だろう。「女遊び、見守っていようか?」などと言い出しかねない。嫌だ。絶対に見られたくない。一回見せたが、その時のお前が本当に気持ち悪かった。私の相手をしてる時よりも興奮しやがって。
 
 はぁ。お前とこうして仲良くなる前は、こんな問題無かったのにな。想像しただけで、淋しい。

 お前が書いた曲で、未亡人の話があるが、もしかしたらあれは、未来の私のための曲なのかもしれないな。
 
 そんなもの、作らないでほしかった。やっぱり、一緒に死のう。いつにするかは、決まらない。でも、これから先、ずっと一緒に……。いや、私が女と遊んでる時間は嫌だ。

 どうしよう。女遊びを辞めるって言ったら、お前、なんて言うんだろう。



 依存。その単語で現せる気がする。私は結局、お前に依存している。残念なことに。お前の方はどうだろう。私がいない時間、ひとりでいつも遊んでいるのだろうか。私のための、私の名前で発表される曲を作っているのだろうか。それとも、私の乙女たちと好き勝手やっているのだろうか。妊娠したあの子も、もしやお前が……。
 考えても無駄なことだが、結局のところ、私はお前と人生を終えたいらしい。前にも書いたか。それでもまた、書きたい。お前と一緒に、最後の時を迎えたい。それも、誰にも邪魔されない場所で。残念ながら、乙女たちも邪魔者になってしまう。ごめんよ。
 お前が作る曲は、「潮見レイにこうなってほしい」という意志が透けて見えるものになっている。そのままの私を、愛してくれているわけではない。わかっている。でも、別に、変化してほしいなどと言ったことも、確かなかった気がする。そういえば、あった。お前が大事にしているものを壊した時だった。
 「それくらいで怒らなくても」と思う私がそこにいた。どうせ、私の金で買ったものなのだから。ただ、買った後、お前は魂を込めていたんだな。たぶん、魂の一部を廃棄させられる気分だったかもしれない。ごめん。
 でもやっぱり、お前はおかしい。物に執着するくらいなら、私に執着してほしい。女遊びをしに行く私を、少しで良いから止めてほしい。私の能力に執着するんじゃなくて、私そのものに執着してほしい。

 もう嫌だ。さっさと心中してしまいたい。でも、なんで私は、この遺書を書いているんだろう。わからない。


 結局、誤字を見つけて直してしまった。はぁ。なんだろな、私。

 そういえば、お前との出会いは奇妙だった。ステージ上にいる私を、お前は、「何かを奪い取ってやろう」という意志を込めた目で見ていた。ような気がするだけで実際どうかはわからないが、そうだっただろう。というか、女だらけの客席の中で、お前は相当、目立っていた。その目立つ中で、お前は私を睨んでいた。わかるか?私がまだ、ブレイクする前のことだ。

 なんだっけ、サイン会の時、お前は相当、奇妙なことを私に言った。それが何だったかは思い出せないけど、私を揺さぶった。そして、後で控室に来るように言った。口元だけで、笑っていた。怖かった。

 その後の展開がこれだ。お前が作った曲を歌ってみたら、ライブに来る客がどんどん増えた。恐ろしかった。そして、またおかしいのがお前だ。「俺は作品解説なんてしたくないから、君が作った曲ってことにしてくれ。君なら、俺がどういう意図で詞と曲を作っているのか、わかるだろ?」などと言い出す。
 実を言うと、そう言ってくれて、当時はありがたかった。サイン会で乙女をガッカリさせないために。たくさん嘘をついてきたから。「貴女のために作ったからね」などという嘘を、乙女たちは信じてしまっていた。そんなこと無いとわかるはずなのに。「恋は、人を馬鹿にし、そして馬鹿にする。」と、お前はよく言っていた。その通りだった。ただ、私に向けられた言葉であることに気付いたのは、つい最近だ。
 ただ、お前もお前で、馬鹿だ。私みたいな奴の黒い部分を全て引き受けることになったわけだから。お前は表よりも、裏側を見ることになったのだから。この美しい潮見レイの裏側を知ってしまったわけだから。前と同じように、美しい潮見レイとして見ることはもう、できなくなってしまったわけだ。馬鹿な奴。客席だけでも酔えていれば、お前の人生はもっと面白かっただろうに。

 あと、ひとつ言っておく。「儲かった分は俺にくれよ。」とか、余計ことばっかり言うからお前は、私の相手しかできないんだ。本当はもっと、女にモテるはずなんだ。私の乙女たちだって、奪ってくれて構わないんだ。
 お前は本当は、かわいい女の相手をしたいだろうに。

 ただ、書いてわかった。お前が私だけのお前でなくなったら、私はたぶん、死ぬ。独占したい。お前に独占されていない私が思うのも、相当、変な話だけど。ただ、お前は私を独占したいとは思わないだろう。
 お前が好きなのは、女の相手をしている潮見レイなのだから。ただ、いまさら言えない。つらい。全部、お前のせいだ。お前が悪い。私に、余計なものを背負わせやがって。なんで、私のことを見に来たんだよ……。


 
 読み返していて、「そういえば、お前も他の女の相手してたな。掘られる側で。」と思い出した。2に書いていることを、自分ですっかり忘れていた。そして、嫌なことを思い出した。お前のせいだ。

 まあ、そんなことはいいんだ。この私に、「私だけを見て」という台詞を吐かせたお前は凄いんだ。そして、「え、なにそれ。君、いつも家にいないじゃん。ねぇ、レイちゃん、熱でもあるの?」といったふざけた返事をしたお前を、絞め殺したくなった。本当に体温計を持ってきやがって。
 絞め殺したらどうするかはわからない。そして、平手打ちをした後のお前、なんで喜んでたんだ。
 そして気付いた。ただのマゾヒストだと。「レイちゃんだけだよ」と言っているが、女からならきっと、誰からでも喜ぶのだろう。特に、私と女の好みは近いみたいだし。

 それにしても、お前は、どの私を愛しているんだ?そもそも、何一つ愛されていないかもしれないわけだけど。まあ、愛されていないとしたら、さっさと心中してしまった方が良い気がする。



 「宇宙って、無数にあってさ。俺が女として生きてる宇宙もあるわけ。そして、レイちゃんが、女としての俺ひとりだけを愛しているような宇宙もね。そして、汚らわしいことに、レイちゃんが男を囲っている宇宙も。まあ、あるわけだ。残念ながらね。」などとお前が言っていたのを思い出した。間違えているかもしれない。
 非常に困ったことを言い出すものだ。まあ、この私は、お前を虐め倒してみることにするよ。

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  『恋はヘロイン』。これは、潮見レイ作詞作曲の大ヒット曲。しかし、実際に書いたのはお前。完全に、私を馬鹿にしながら書いた曲だ。そうだろう?
 恋というヘロインに溺れた、表面上ではクールな王子様が裏ではとんでもないことになっている、という曲。潮見レイの裏側を知らない人間が聴いて、「潮見レイの多面性」を勝手に見出し、あれこれと考察する人間が後を絶たなかった。そして、訳のわからんうちに売れた。
 そして私は「作品解説になっているとは到底思えないポエム」を作品解説として吐き続けることになった。そして、勝手に観衆が意味を考え、そして語り、の繰り返し。ポエムを吐くのは得意だ。何千人の女を落としたと思ってる。いや、数を数えてないから、実際には千人ちょっとかもしれないけど。

 そしてお前は、「まあ、レイちゃんが歌うからだよね。俺の仮歌、微妙でしょ?「訳わからん男が訳わからんことを歌ってる」くらいにしか思わないでしょ?そういうこと。凄いのはレイちゃん。ってか、そろそろ作詞やったら?できるでしょ?作曲だって、僕じゃなくていいはずだし。まあ、他の人がゴーストライターやったら、後で大変なことになるだろうけど。それでもまあ、レイちゃんも作曲やればいいんじゃないかな。」などと言った。できるか。まあ、仮歌が微妙だったのは本当だが。ただ、作詞作曲については本当にできない。というか、お前も聴いただろう。
 あの程度のものしか、私には作れない。お前は、お前の能力を過小評価し過ぎなんだ。あえて、二重表現を使いたくなるくらいには。

 本当に、ムカつくやつだ。やっぱり、私が息の根を止めておいた方がいいんじゃないか。

 やっぱり、一緒に地獄に行きたい。天国でも別に良いけどさ、お前、どうせワイン飲み過ぎるだろ?弱い癖に。まあ、死んだ後なら大丈夫か。そのための天国だし。
 
 
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 6で ”「それくらいで怒らなくても」と思う私がそこにいた。どうせ、私の金で買ったものなのだから。ただ、買った後、お前は魂を込めていたんだな。たぶん、魂の一部を廃棄させられる気分だったかもしれない。ごめん。”と書いたが、あれは結局、ゴーストライターとしてのお前が稼いだ金なんだよな。悪かった。いや、本人に言えよと思うだろうけど、伝えるのは私が死んだ後で良い。心中するとしたら……。え、どうしよう。
 この話は、結構大きな話をしている気がする。ゴーストライター問題で前に誰かが揉めていたが、あれも金の問題だった。揉め事になっても困るから、訊きに行ったのだが……。
 「ねぇ、レイちゃん、膝枕お願い。疲れた。」といきなり言ってきた。私は困惑した。もちろん応じたが。意外と、お前もかわいいんだな、と思った。私の膝の上でのお前は、飼い猫みたいだった。昔飼っていたタロウに似ている。懐かしい。タロウのこと、もっとかわいがればよかったと思って、頭を撫でた。気持ちよさそうにしているお前にキスをした。嬉しそうにしていた。お前を見てると、たまに、女の子かなと思うこともある。たぶん、女の身体だったら、私の乙女たちの中に埋もれていた。一晩限りだったかもしれない。危なかった。
 
 そしてお前は、「曲作るの、もう辞めたい。疲れた。レイちゃんと添い寝してたい。」と言い出した。そう、お前は疲れると、私に甘えてくる。さっきも「別にいいけど」と、そっけなく返したが、本当は嬉しい。この遺書を見て、お前は驚くのかな。それとも、知ってるのかな。それとも、「別に毎日したいわけじゃないから、これくらいがちょうどいい」のかもしれない。たぶんそうだ。お前、ひとりになりたがるもんな。
 「本当は、ずっと一緒にいたいんだよ。」と、いつ言えるのか。言えないまま死んでしまっても、この遺書には書いてある。しっかり読んでくれよ。

 でも、たまにでも、そばにいてくれて、ありがとう。

12
 
 11を読み返し、消したくなった。しかしまあ、取っておこう。お前が見たいのは、私の恥だろうからな。だからこそ、消したいわけだけど。

 そういえば、私の乙女のうちのひとりがうちに居座ろうとした時があった。あれは確か、冬のこと。その時のお前は、「ああ、俺は極力部屋に篭もるから、後はお好きにどうぞ。でも、リビングと廊下は使うから、見られたら困ることをするなら、鍵のかかる部屋でやってね。よろしく。」と言った。ふざけるな。追い出せ、お前が。
 しかしまあ、お前の言い分もわかる。追い出そうとしたら、お前は悪者になってしまう。と思ったら違った。5日くらい経ってあの子が帰った後、「君たちの声、最高だった。にしても、なんで防音室でやらなかったの?ま、レイちゃんは優しいから、聞こえるようにしてくれたんだよね。ありがとう。」などと言い出した。

 防音室は音楽の練習のために作ったのであり、そういうことのために作ったのではない。お前が作った歌いづらい曲を練習するために作ったんだ。その場でそんなことを……。それと、何をしているんだお前は。もしかして、部屋に篭ってても聞こえた?

 そういえば、お前が作った曲、色んな女が歌っているみたいだ。動画サイトに行くとたくさんある。いや、「あった」になっているかもしれないが。お前に聴かせてみた時、「レイちゃんが一番なんだよなぁ。まあ、レイちゃんのために作ってるからね。にしてもなー、みんなこの曲、レイちゃんが作ってると思ってるのか。なんとなく申し訳無いからさ、レイちゃんも早く曲作ったら?作詞だけでもやりなよ。」などと言った。
 ちなみに、男が歌っているのを聴く度に、何かを奪われている気がした。上手くないものに関しては別だが、売れそうな歌に仕上がっているものを聴く度に、「お前は本当はこのように歌いたいんだろうな」と思う。
 でもお前は、「レイちゃんみたいに歌いたいんだよね。まあ、ソックリにやっても意味無いし」と、うだうだ言うんだろう。知ってる。

13

 私の名前の由来を親に訊いてみたことがある。母は「知らない」と言い、父は伊集院レイという人物について教えてくれた。そして、「あいつ(母のことだ)には黙っておいてくれ」と。まあ、わかる。そうだろうな。そして、思ってた以上に期待通りだったらしい。
 私の親はなかなかにおかしい。でも、最高の親。そう思う。お前のところはどうだっけ?
 
 そう言えば、お前の人生について、あまり知らない。教えてもらうとするか。


14

 「そうねぇ……。野球が上手くないことで、色んなところから拗れて行ったんだと思う。まあ、遺伝とか、色んな要因ってあるじゃん。向いてることをやっていても、結局は野球をしたくなったんだよね。まあ、レイちゃんと一緒にいられるなら、別になんでもいいけどね。そういえば、昨晩はどんな女を……」

 お前はそう言ったが、よくわからなかった。ただ、私も私で、どこか拗れている。最高の親だけれど、私が望んでいたような愛情は貰えなかった気がする。

 まあ、仕方無い。完璧な人間などいないのだから……。

15

 サイン会。恐ろしいことを訊いてくる女がいた。「あの、もしかして、旦那さんが書いてます?『恋愛の時間』の歌詞。女性にあれが書けるとは思えないんですよ、どうしても。あなたの旦那さん、気前良く曲を貸してくれそうじゃないですか。それと、あのインタビュー記事と同じ匂いがして……。」と。眼鏡の奥の表情が怖かった。
 上手く誤魔化せたか、わからない。でも、私は誰のために、誤魔化したのだろうか。私のためだろうか。いや、私は、お前が作ったとわかった方が良いと思っているのだが。でも、お前は隠そうとする。しかしながら、なんでインタビューになど応じたのか。

 お前は「え、いや、だってさ。女と女の恋愛を眺めたり、その話を聞きたい男もいるってわかった方が、女と女の恋愛が増えそうじゃん?潮見レイの夫なわけだし、俺。」と答えた。

 お前にとっての人生は、何なのだろうか。一生、わからないと思う。

16

 15で書いた眼鏡の女を食べた。それで、『恋愛の時間』は潮見レイが作詞作曲したものだと納得したらしい……。いや、もちろん、眼鏡の女の最初の直感が正しかったわけだが。

 お前が「男の雑味」の話をしてくれた時のこと、覚えているか?「実際の男は、達人でもない限り、君みたいに丁寧に動かない。もっと、動きが飛んだり、軸をその場に保ったまま動くものだ。まあ、俺の動きは参考にならないけど。」といった感じの内容だったと思うが。
 そして、その言う通りに動いた。「性欲のせいで動きが乱れた」ということにして。そしたら、騙されてくれた。「男のような性欲を、あなたも持っている」と。なんということだろうか。

 しかし、この話を今のお前にしたら絶対に調子に乗るから、ここに書いておく。それにしてもまあ、ただの備忘録になってないか?この遺書。読み返していて、私が読んでも面白いなと思う。およそ、何を書いたかなんて忘れてしまうし。
 
 ちなみに、食った女の話はなるべくしないことにする。そんなことをしても、お前が喜ぶだけだ。そのために書いてるわけではない。


17

 お前がうるさいから作詞作曲をして、いつもの編曲家のところに持っていった。そしたら、「これ、旦那さんが作ったでしょ」と返された。なんということか。ちなみに、今までは全く何も言われないどころか、「君らしい良い曲だ。」と言われる。毎度毎度。
 という話をお前にしたら、「へー。じゃあ、俺が歌おうかな。面白いじゃん、それ。その曲は俺が作ったことにしとくね。」などと言い出した。
 
 あの時の私は頷いたが、本当は嫌だった。私が初めて作詞作曲した曲だぞ!はぁ、なんで、本当に作った曲は、お前の曲になってしまうんだ……。いや、それ言ったらさ、私名義でお前が作った曲が大量にあるんだよな……。はぁ、なんでお前に振り回されてるんだ……。まあ、どうせお前も振り回されてるって言うだろうし。振り回し合う関係というところだろうか。

 不思議なことに、私の曲を歌うお前、活き活きしてるんだよな。なんだろう、「潮見レイにできないことをやってやる」みたいな、そういう感じにも見える。まあ、私、一応、女の身体で生まれてるし……。一応?

 で、これを読む頃のお前は忘れてそうだから書いておくが、「潮見レイの夫のデビューアルバムとして」、「私が書いて、お前が歌った曲たち」は結構売れた。まあ、私のほどじゃないけどな。

 ちなみに、その編曲家には後ほど、「正直って、大事だよね。」と言われた。いや、嘘ついたら正直者扱いされるって……。ひとまず、お前のありがたさがわかった。私が嘘をついてるかどうか、しっかりわかるからな。いや、たまに困るけど。

18

 そういえば、お前の苗字、潮見なんだよな。私と同じ。結婚するってなった時、「潮見になりたい」と言い出したんだ、お前が。うーむ、なんでそうなったのか。まあ、都合良いけどさ。旧姓とか、めんどくさいじゃん。お前はまあ、関係無いだろうけどさ。
 そして、Kって確か、お前の苗字から取ったんだよな。「旧姓を少しでも感じられるように」とかいう名目で。時々、K-潮見と表記されたりするが、あれは旧姓と今の苗字が合わさったものになっている。なんなんだ。
 そういえば、お前の下の名前、なんだっけ?長らく呼んでなかった。お前って呼ぶか、Kって呼ぶか、だいたいどっちかだからな。まあ、公の場で、うっかりお前の名前を出さないためにも、忘れたままでいいか。
 にしても、夫の名前を知らないって……。たまに困るんだよな。まあ、いいか。ずっと家にいるのは
お前だし。な?

19

 「7日間、仕事も女遊びもしない。ずっと家にいる。」とお前に告げたところ、また体温計を持ってきやがった。そして、ビンタされて喜ぶお前を眺めて、何故か安心するようになってしまった。うーむ、何故だろう。ちなみに、訊いてみたところ、「レイちゃんがビンタする相手って、俺くらいでしょ。デュフフ。」と、何やら気味の悪い笑い方をしていた。はぁ。
 
 まあ、この7日間が楽しかったわけだ。いや、なんで私、女遊びしてお前を放ったらかしてるんだろうと思うくらいに。あの時のお前は、本心ではどうだったんだろうか?私の骨にでも語りかけてくれ。いや、つまらなかったなら、何も言わないで。

 お前は、どんな私を見せても、たいていは受け入れてくれる。ただのマゾヒストなのかもしれないが、まあ、どうなんだろうか。お前が相手していた女の話を聞く限りでは、お前がS側なんだけどな。と思って訊いてみたら、「理想のSがいなかったから、Sをやってただけだよ。レイちゃんと結婚できてよかった。」だとさ。本当なのだろうか。お前の言葉は、どうも信用できない。嘘つくの、どうせ上手いだろうし。っていうか、なんで、ゴーストライターをやっていることを隠し通せるんだ。
 はぁ、こうして書く文章が、元々の潮見レイに近付いていく……。まあ、どうせお前しか見ないんだし、どうでもいいか。いや、でもお前、出版しそうだな、これ。やめてくれ。頼むから、やめてくれ。恥ずかしいから。
 
 それでも、恥ずかしい私も、お前になら見せられるんだな。よかった、お前と結婚できて。でも、大嫌い。「まだ大丈夫なの?君の乙女たちは?」とか訊いてくるんだもん。まだ5日目だったのに。お前のことだけ考えていたかったのに。
 
 やっぱり、最後は心中する。死の3日前くらいにこれを読ませてやることにしよう。それでいいだろう。もし、もっとしっかり相手してくれるなら、心中はやめにして、しっかり二人で生きる。そうしよう。でもなぁ、なんでさ、お前、私の恋愛遍歴を聞きたがるんだ?わからん。もういいだろう。50人目くらいから、もう話すの飽きてるんだが……。まあ、お前が喜ぶから、話しちゃうんだけどさ。


20

 「レイちゃん、なんでそんなに女にモテるの?いや、そうじゃないか。どうやったら、そんなにモテるようになったの?」とお前が訊いてきた。「私の恋愛遍歴を聞いて、何が楽しいんだ?」と訊いてみた時に、お前がそう訊いてきた。「レイちゃんが抱いた女の話を聴く度に、レイちゃんのことが深くわかっていく感じがする」とも言ってたな。

 「わからない。それより、添い寝して。」が私の答えだったけど、この遺書の中では教えておく。申し訳無いけど、お前がモテないのはもう仕方無い。お前は本当に、マニア向けの存在なんだ。というか、色々とおかしいんだ、お前は。お前で喜ぶのは、たぶん私くらいだ。あ、いや、いたなぁ、おかしいのが。なんだっけ、2に出てきたアイツ。あれ以降、お前には一度も会わせてないと思う。コッソリ会ってるかもしれないけど。それは無いといいな。

 それよりだ。お前、どこでその技を身に着けた。私を快楽漬けにしてるの、お前くらいだぞ。はぁ、そういえば、「男の味も、人生で一度くらいは知っておくか」ってことで始まったのに、もう何十回目なんだろう。1週間空けたりすると、お前さ、少し休憩を挟んで何回も何回もやるじゃん。応じる私も私だけどさ。
 はぁ、嫌いだ。でもなぁ、愛しちゃったから、しょうがないんだよな。

21

 「レイちゃん、既にできてると思うけどなぁ。ああ、君の乙女たちに教えたいのね。相手の心の穴を、丁寧に丁寧に触ればいいんだよ。というかなんだろう。えーっとね、そもそも、相手の心にどうやって侵入するかだけど……。レイちゃんの場合はさ、歌ってる時の感覚でいればいいんだと思う。相手にどうやって、自分の感情を届けるか。それでしょ。」

 そう言ってたお前を直後に襲って快楽漬けにして、とても楽しかった。泣いてたな、お前。かわいかった。大好き。

22

 2の乙女、まだお前と交わろうとしている。黙って襲っておいた。お前、モテないなんてことは無いんだよな。やっぱり。私が近付けないけど。
 でもなぁ、みんな、私に捨てられそうになると言うこと聞くんだよなぁ。私、そんなに怖い?

23

 「レイちゃんはいつでも怖いよ。」というのが、「私のことが怖くなること、ある?」に対しての、お前の返答。「レイちゃんがビンタする時、気持ち良いくらいに手加減してくれてるのも知ってるよ。」と言われた私は、気付いたら本気でビンタしてた。あれは本気だ。MAXだ。でもお前、まだ手加減してると思ってるんだよな。
 違うよ。お前相手にはできないんだ。なんだかんだ、大事だから。はぁ、心中、本当にできるのかな。私だけ死んだら、お前、悲しむんだろうな。悲しまなかったら、それはそれで、一生呪ってやるけど。私のこと以外を考えられなくしてやる。

24

 「レイちゃーん、助けてー。」と、気の抜けた声でお前が言った。何かと思えば、構ってほしいと。なんだそれ。心配して損した。「言われればいつでも構うのに。仕事の時以外なら、いつでも。」と、口から出そうとしたら、出なかった。いや、本当は、仕事だってサボっていいんだよ、ライブ以外なら。レコーディングもまずいかな。あるじゃん、よくわかんない打ち合わせ。あれはサボっていい。

 もしかして、お前、寂しいけど、それを誤魔化してたりするのか?いや、それは私もなんだけどさ。なんだけど。どうしようかな。
 
 あとさ、お前が本気で私のことを好きなの、やっとわかったよ。やっと。ごめん。

25

 「女遊びはそろそろ辞める」と言った時のお前、驚き過ぎ。あのカップ、高いんだぞ。なんてことを。いや、いいんだけどさ。
 口では嫌がりながら、表情は喜んでたからな、お前。これを読んで思い出せよ。あ、そうだ。「気持ち良かった。好き。」って言いそびれた。しょうがないじゃん。まあ、伝えるのは、お前がこれを読む時でいいか。

26

 これ書いてる時、ヒヤヒヤするんだよなぁ。お前がいきなり覗き込んできたらどうしようって。少なくとも、今のお前には絶対に見せたくない。いや、でもなぁ。伝えるべきことは伝えた方が良いんだろうな、とは思うわけで。変な気分になるのは、ずっと一緒にいる人間相手に伝えてないことがあるっていうこと。まあ、ヘソクリみたいなものだと思ってほしい。良い遺産だろ?


27

 「レイちゃんごめん。」と言いながら、お前が襲ってきた。いや、我慢しなくていいんだって。でもさ、私、不機嫌になってたよな、最近。言い出しづらかっただろうな、きっと。って、またここに書くんだけど。言えない。だからなんだろうな、私から言わないと、何も始まらないの。いつもいつも、言い出しづらそうにお前が言って、私の気分次第で始まって。そうなんだよなぁ。
 
28

 今度は私から襲った。どうだった?好きって何回も言ったけど、届いた?答えは、私の骨にでも言ってくれ。いや、やっぱり、無し。明日訊こう。

29
 
 「やっぱり、襲われる方が楽しい。」と、お前が言い出した。なんだよもう。「私も」って言うか、迷ったじゃん。もう。嫌いだ。

30

 風邪引きやがって。なんだよ。襲ったのは、一緒に風邪引きたいからだからな。でも、体温高い方が気持ち良いって、本当なんだな。なんだろう。やっとお前、素直になってきたよな。

31

 風邪引いてたから書けなかった。なんだよ、お前だけさっさと治りやがって。でも、看病されるの、よかった。そして、レコーディング延期。もういいや。印税だけで十分だろ。ギター欲しいってお前が言わなくなったからな。っていうか、今ある分の半分で十分だろ。お前、別にレコーディングに参加しないし。そもそも、別にギター上手くないし。
 ってお前に言ったら、「え、レイちゃんが稼ぐ印税、そんなに少ないの?ってか、どのくらい貯まってるの?」って。そういえばそうだ。あの曲、お前が作った曲なんだよな。すっかり忘れる。ギター買うより、貯めた方がいいと思うんだよね、金は。だってさ、お前、無駄遣いするじゃん。お年玉を没収してきた母の気持ちがわかったよ。やっと。

 それはそうと、もう31なんだよな、この遺書。何気なく番号振ってたけど、そうなんだよ。よくぞまあ、ここまで書いたものだ。ただまあ、私が死んだ後のお前に言いたいことはまだまだあって……。いや、毎日毎日増えて行くんだよ。今のお前には言いたくないことが。
 でもなぁ、どうするんだ?私が死んだ後にこれを見て、お前が後悔したら嫌だな、とも思うわけで。困ったものだ。まあ、見せないけどね、今は。


32
  
 「ねぇ、レイちゃん。俺と結婚して、よかった?」と、お前が訊いてきた。勿論なんだけど、なんだかなぁ。訊かないでも、わかってよ。

33

 「レイちゃんどうしよう。レイちゃん、歌が下手になってる」とお前が言い出した。「たぶん、女遊びしてないから」とも。聴いてみても、よくわかんなかった。別に私、耳は良くないし。
 「作る曲の傾向を変えてみる」とのことだが、どうなるか。ただ、そろそろ私が曲を作ってもいいのかな、と思う。今なら、書けると思うんだ。お前に向けて書けば、いいんだろ?そうだろ?

34

 また曲作りについて訊いてみたら、「詞先でやってみたら?」とのことだった。というか、お前もそうしてたのか。早く言えよ。こっちの方がやりやすいんだから。
 

35

 「ああ、やっと、潮見レイが歌うための曲を潮見レイが作ったんだね。」とお前が言った。「ただ、今まで聴いてきた人は、あんまり良く思わないかもね。まあ、違う傾向のライブをやったり、アルバムを作れば良いんじゃないかな。」というのも付け加えて。よかった。

 ただ、「自分で作った曲を初めて人前で歌う」という感動を共有できるのが、お前しかいないのが虚しい。まあいいか。秘密って、そういうことだもんな。

 でもなぁ。意外とアッサリだったな。なんだよ、詞先かよ。でも、あれだな。似た者同士なんだな、私達。


36

 「レイちゃんがずっと家に居るって、凄いことだなぁと思ってたんだけど、慣れてきた。なんというか、やっと安心感に安心できるというか、なんというか。」とお前が言った。私に抱き着きながら。今までのは何だったのだろうか。でもまあ、変な夫婦生活だったなぁ。
 妻が女遊びをし、夫が待つ。こういう家庭、他所にあるのかなぁ。ただ、我が家はもう、違うんだよな。
 「我慢してたの?」と訊いてみたら、「そういうわけじゃないけれど……。でも、レイちゃんが家に居ると嬉しい」と答えた。なんだ、我慢してたんじゃん。かわいいけどさ、なんだろう。
 そして、乙女たちをどうするか、一切考えてなかった。うーむ、どうしようか。

37

 「他の女の匂いがする」は嬉しそうに言う台詞ではない。感想を訊いてくるお前にビンタしてそのまま寝たけど、やっぱり、女の身体は良い。お前の身体にはもう飽きた。まあ、お前なら見てわかっただろうな。

 お前が待っててくれるのって、本当はありがたいことなんだけど、でも。でもね。いや、いいや。

38

 匂いからどんな女を抱いてきたのかを予想するな。当たってるよ。気持ち悪い。どこでそんな訓練を受けたんだ。
 お前が女だったら、良い妻になったんだろうな。でも、私みたいなのに食われて、ポイ捨てされる。男が相手では満足できなくなって、私の幻影を追い掛ける。哀れだな。

 よかったな。お前はお前で。

小説『顔』

 「これ、整形する前の私なの。」
 僕が一目惚れした女は、もうこの世にいない。けれど、目の前にいる。そして、僕が一目惚れした女を消した張本人でもある。
 「今は言わないで。答えは一週間後に。それまでは、思い出を作らせて。お願い。」

 「思い出。僕も作りたかったな。」と、君の綺麗でもない泣き顔を見て思ってしまった。

 
 ここまで読んで驚いたかもしれない。まあ、そうだろう。隠してたから。
 この文章を読んでから、僕と結婚するかどうかを決めてほしい。僕としてはどちらでも良い。答えを要求されたのは僕だったが、僕が決めても仕方無いから君に決めてもらおうと思う。

 それでは、君が思い出としようとした一週間、僕が何を考えようとしたかを書き綴ろうと思う。

 お楽しみあれ。

・1日目

 「Big fly Ohtani-san!」と、アナウンサーが言っている。ある意味では「なんだ、またか」だが、嬉しいことでもある。どうせなら、もっと打ってほしい。
 と思ったら、「大事な話がある」と君が言い出した。「この試合が終わってからにして」と返した。不満げな顔をしていた気がする。しょうがないじゃん、大事な話を試合見てる時にできるかよ。いやまあ、どうせエンゼルスは負けるのだけれど。
 
 結局のところ、オータニさんの活躍むなしくエンゼルスは負けた。君の顔よりも見た光景だ。実を言えば、君の顔なんてものはほとんど見ていない。揺れる髪か、鎖骨を見ていた。いや、表情がどう変化してたかは眺めていた気がする。

 で、本題に入る。写真の中の人物に僕は一目惚れした。そして、それが過去の君であることを知った僕は落胆した。君か受け取った意味とは真逆である。
 「私、こんな女だったの。信じられないでしょう?こんなに暗くてブスな女、誰も好きにならなくて……。」と聞いた僕は、神の采配を怨むこととなった。

 「もっと早く出会わせろ」、と。

 
 夜、隣で眠る君から、かつての片鱗を感じ取ろうとしたが、わからなかった。

・2日目

 かつての君の写真を預かって僕がどうしていたか気になるだろう。かつての君と街を歩く妄想をしていた。君が仕事に出掛けている間、君の写真をポケットに仕舞って街を歩いていた。そして、時々写真を見た。
 たぶん、外から見たら「妹を亡くして哀しむ兄」か何かに見えただろう。正しい。ある意味ではもう死んだのだから。ただ、兄妹でも姉弟でもない。

 よくよく写真を見たら、元々の君の顔と僕の顔はそれなりに似ている。「自分に似ている女、どこかにいないかな」と思っていたのだが、まさか以前の君とは。

 君は一体、僕の顔をなんだと思ってるんだ。とも思う。でもまあ、顔目当てではないからな、お互いに。
 
 
 君が帰ってきた後、「他の女に会ってきたの?」と訊いてきた。「会えなかった」と返したら、「残りの時間だけは私のことだけ考えて」と泣き出した。もうちょっと、綺麗に泣けないものだろうか。

 ただ、本当は、今の君は美人と言われるべきはずだ。言われ慣れているだろう。ただ、僕の好みから遠い。それだけのことだ。
 でも仕方無い。その彫刻品(実際の整形手術がどのような手順かは知らないから他の表現の方が良いかもしれない)としての顔を褒められ飽きたから、君は僕の相手をすることになったのだ。話をやたらと聞いてくる僕を。
 実のところ、君みたいな金持ちの思考回路を知りたかっただけだ。ただそれだけ。そして、君のところにいれば僕は金を稼がずに遊び回れるから、君の申し出を受け入れた。愛情がそこにあるかは、知らない。

 とりあえず、整形前の君の方が好きだし、愛情を持って接することができると思う。きっと。でも、当時の君は僕に興味を持っただろうか。ひとまず、出会えなかったはずだ。


 夜、僕は君に襲われた。楽しかったよ。襲われる方が好き。続きを読む前に襲ってもいいよ。でも、死ぬのは嫌だから、そこはよろしく。


・3日目

 なぜ、文章で渡そうと思ったか。話すと長くなるし、忘れそうだから。君の目を盗んで書いていた。

 それと、僕自身、僕が何をどう感じているのか、知りたかった。
 
 相変わらず僕はメジャーリーグ中継を見ようとしたのだが、君が止めた。やれやれ。僕はオータニさんのホームランを見逃した。

 ところで、君は僕のどこを気に入ったのだろうか。「話をしっかり聞く」だけではなかろう。「他の男はみんな雑だから」とか、そういうのだろうか。
 ひとまず、僕を気に入ったのは不幸な話かもしれない。

 さて、君が仕事を休むことにしたから、あと4日間くらいは君とずっと一緒に暮らすことになる。それはまあいいのだけど、野球を見たかった。

 ひとまず、君とオークラのパンケーキを食べることにしたのは正解だった。美味だった。自分の金ではなかったから、余計に。というか、自分の金で食べる気にはなれない。
 帰りにタピオカ。糖分取り過ぎな気もしたが、まあよかった。これも思い出になったのかな?

 ふと思えば、君は動きが綺麗である。あとは綺麗に泣くことさえできれば。整形前の写真さえ見せられなければ、即決で結婚してたのに。
 もしかしたら、整形前の顔に一目惚れしていても君としたら別に問題無いのかもしれない。どうなのだろう。気になる。まあ、そのためにこれを書いているのだが。

 でも、Xデーまでは黙っておく。
 夜は君に抱き着かれた状態で寝ることとなった。この胸はシリコンなのかとずっと気になって、なかなか眠れなかった。
 シリコンだったとしたら、外してほしい。胸は自己主張していない方が良い。鎖骨の邪魔をしてしまう。胸は鎖骨より目立ってはいけない。

 まあ、君が僕から離れるのなら、関係の無い話だ。

・4日目
 
 よくよく考えたら、前に住んでいた物件は解約したのだった。さて、君との同居が続かない場合、僕はどこに住むことになってしまうのだろう。
 まあ、また君みたいな人を探せばいいのかな、とは思う。今度は、整形前の顔が本当にブスな人を。いやまあ、整形経験者である必要は何処にも無いのだが。

 それにしても、本当に誤算だった。君が整形しているのは薄々気付いてた(フィフティーフィフティーくらいの精度だろうと思っていた)が、まさか、整形前の君の顔があんなにも僕好みだとは。
 
 でも、僕の好みが特殊なような気もしている。整形前の顔は、テレビや雑誌等では出番の無い顔だろうし、事実、今の方が君はモテる。僕は金目当てだったが、今ならテレビでもチヤホヤされるだろう。
 

 昼間。また君に襲われた。その間、子供ができたらどうなるのだろうと考えていた。娘だったら、整形前の君そっくりでかわいいだろう。君が要らないと言うなら、僕が育ててもいい(育てる金は無いがな)。仮に結婚してたとしても、君を放置して娘の相手をしているはず。

 息子だったら、要らない。

 夜。ふたりとも真夜中に起きて、ふたりで散歩した。あれもあれで楽しかった。

 
・5日目

 整形前の君を消した張本人が君であるという事実を、僕はまだ許せていない。のだが、消さなかったら、ここまで生きてこれなかったのかもしれない。事実、君が稼げているのは、「今の」顔のおかげだ。断じて、君の実力ではない。君が取った契約は、顔で取ったものだ。たぶん。
 その金で遊び回ってる僕は、文句を言える立場ではない、のだろう。
 
 そして、君は自信を掴むということもなかっただろう。当時の君に僕が出会っていたとして、僕はどこまで君の自信になれただろうか。

 そう思うと、君は今の君でいることが正解なのかもしれない。

 そんなことを、君が淹れる紅茶を飲みながら考えていた。話を聞いてなかったのは、そういうこと。すまんね。

・6日目

 もう、結婚を決めていいんじゃないかと思ってきた。まあ、それだと騙すことになってしまうのだが。まあ、いいでしょう。全部君が悪い。

 離婚を検討する時にこれを見せることになるかもしれない。覚悟あれ。と言っても、その時の君は、これを初めて見ているんだよな。ふふん。

・7日目
 
 君がずっと泣いていた。綺麗に泣けるようになったじゃないか。よかった。ありがとう。



・結び

 君がいつこれを見ているか、これを書いている時の僕に知る由は無い。もしかしたら、浮気や不倫の証拠を探している時かもしれないし、すぐかもしれないし、それか、僕がこの世から退場した後かもしれない。
 
 いずれにしても、君は驚くだろう。君にこれを見せないという選択をすると、その驚く顔を見ることができないわけだが、まあ、人生ってそういうもんでしょう。
 
 とりあえずまあ、どうもありがとう。そして、整形前の君によろしく。君が君と仲直りしてくれると、僕は嬉しい。

















小説『歌わない風』



 「完璧な人生などといったものは存在しない。完璧な文章が存在しないようにね。」という、どこかの小説で読んだようなフレーズ―それもまた、模倣に見えないようなものであればあるほど良いと思っていた―を最初の行に書きたくなってずっと考えていたのだが思い付かない。そして、そのまま書くことになった。そういう流れだったのだ。
 50℃くらいのお湯でカップラーメンを作る際には、3分では足りない。3分というのは、熱湯を注いだ際の時間設定だからだ。しかしながら、それを待てなくなって、硬い麺のまま食べた。そのような心境である。ある意味ではポティトー・チップスのような歯応えであり、それは僕に歓迎されるもののような気がする。

 そして、僕の食事は、その後の喫煙のためにあるかのようなものであった。マールボロは辞めて、パイプ煙草を吸うようになった。複数の缶、及びパウチ―「石油由来の包」と言った方が適切かもしれない―を空け、その時の気分で選んでいる。
 今回の気分は、サミュエル・ガーウィズ『フル・バージニア・フレーク』であった。薄い板状になっている煙草をパイプに詰め、火を点け、丁寧に吸ったつもり、だった。マールボロとは違い、煙草の機嫌に合わせないことには、良い味は出ない。しかしながら、拗ねた少女のような味わい深さも、そこにはある。味が良いか悪いかは、置いておいて。
 香料を使わず、そして、バージニア葉のみを使用した逸品なのだが、如何せん技術不足で、上手く吸える頻度は低い。守備の良さだけで試合に出続けている捕手の打率くらいに確率をようやく乗せることができた。「2018年シーズンにおける、読売巨人軍でのコバヤシの打率くらいの確率」という固有名詞を出した方がわかりやすいだろうか。コバヤシを知らない人がこれを読んでいる時のために説明すると、「3割打てれば上出来と言われている中で、コバヤシは特に打てない」。それだけのことだ。



 そういえば、僕はこの人生の中で『クソ野郎』と言われ慣れている。そう、言われ慣れてしまったのだ。最初に僕に言ったのは、誰だっただろうか。忘れてしまった。まあ、仕方無い。
 僕が不機嫌な時、あるいは、不機嫌な相手を見て「面倒だな」と思った時、人間関係が切れる。それはまるで、茹で過ぎた太い麺のように。重力に耐えられなくなった様が、僕の人間関係をよく示している。ただ、切れる様子が見えるのは良いことであろう。命綱が切れていることに気付けないよりは、よほど。そのような人間を、よく見てきた。命綱が切れそうだとわかれば、交換すればいいだけのことだ。人間関係も、同じこと。
 僕にとっての人間関係とは何なのだろうか。少なくとも、人間関係を「長く続けよう」とすると、おかしなことになる。コミュニケーションというものは一期一会だ。そのことを、しっかりと覚えておこうと思う。アドリブセッションみたいなものだ。
 偶然にも、あるいは、運命的に長く「続く」人と長く関わればいいだろう。



 僕が何故、小説を書いているのか。ある時の僕は、「自分自身を見るため」などと言っていたように記憶している。
 今の僕は結局、自分で読むための小説を書いている。そのことは間違い無い。自分で書いた小説が一番、読み心地が良い。まあ、当たり前だろう。パクチーとチーズが好きな人間がパクチーとチーズを使った料理を作り続け、そして食べ続けているのと同様に、僕は僕が好きな要素を用いた小説を書いているに過ぎない。
 当然、弊害がある。パクチーとチーズを使わない料理について、どんどん疎くなっていくのだ。外食をする際にはラーメンを食べるものの、あとは、パクチーとチーズを使わない料理について食べることもなければ、見ることすら無い。あるいは、料理番組を見るにしても、「この料理にパクチーとチーズを入れたらどうなるか」だけを考えるようになるのだ。

 そうなってしまったが最後、違う傾向の小説を書けなくなる。僕で言えば、「風景描写」という食材を使わなくなる。書き手(作中でエッセイあるいは日記―僕が小説を書く際、架空の誰かが書いたエッセイまたは日記を書くつもりで小説を書いている。「別の宇宙から受信する」という言い回しをすることもあるが、その場合、手が勝手に動く感覚で書いている―を書いている人間)が、なかなか自宅の外に出ないからだ。あるいは、風景について、興味が無いか。心情描写だけが為される。
 しかしながら、よくよく考えてみたら、そんなに多彩な作風で書ける必要など無いのだ。漫画であれば、月刊誌に一本連載するだけでも重労働である。手塚治虫の真似をできるのは、「漫画を書かないと死ぬ、あるいは、生きている意義を見出だせなくなる病」に羅患した者だけだ。
 「ひとつの作品を完成させるまでは、ひとつの作風だけを維持する。」これで十分なのかもしれない。しかしながら、飽きてくるのだ。

 もし、僕が「登場人物だけ変えて似たような作品を少しずつ書いているような小説家」に見えるのであれば、今回分(3という数字と4という数字の間に書かれた文章に挟まっている文章のことである)の内容が原因かもしれない。同じような食材で、違う料理を作ろうと四苦八苦するようなものだから。



 この文章は僕にとってはエッセイなのだが、あるいは別の宇宙の人間が、これを小説として書いているかもしれない。いや、僕がこうして考えついてしまった時点で、その宇宙は存在している。
 「宇宙が複数ある」という話は、確かクリプキという哲学者によって明示されたはずだ。クリプキという哲学者が存在しない宇宙の場合どうなるのか、とても気になるところではあるが……。

 さて、時々考えることなのだが、「何故、この宇宙の僕として、僕は存在しているのだろう」というテーマが存在する。別の宇宙の、それも、今理想的に設定した別の宇宙にいる僕―自由に使える金が無限と読んで差し支えないくらいにあり、それを有効活用し、最大限人生を楽しんでいて、なおかつ、なろうと思えばすぐにでもメジャーリーガーになれるくらいの運動能力を持っていて、別の宇宙になど行きたくないと思っている僕、というのが最初に思い付いた―として今存在していれば、そんなに都合の良いことは無いのだが、何故かそうも行っていない。これもまた、神の粋な計らいなのだろうか(神がいるかなんて知らないが)
 そういえば、神がどうとかという話をしている中で、「神が脳を作ったとすれば、なんでこんな造りにしたのかしら」という疑問が浮かんだ。いや、どこかの本で読んだのを思い出しただが。
 別の宇宙にいる「完璧な造りをした脳を持つ僕」を考えてみて、「もしかしたら、もっと雑味が欲しくなるのかもしれないな」と思ったが、実際どうだろう。ただ、「何も不満を持たない僕」も、別の宇宙に存在するわけだから、特に何がどうなっているかについてはわからない。

 さて、あれこれと考えてみたわけだが、結局のところ何が言いたいのかはわからない。あるいは、何も言いたくなかったのかもしれない。わからないことについては、少しはわかったかもしれない。


 
 「何も不満を持たないということが不満である」ということも、あるいは有り得るかもしれない。ただまあ、その場合は、「不満を持っていないこと」それ自体が不満ということになるのだが……。
 そういえば、「僕も心が欲しい」と思うようなロボットが以前どこかにいたらしい(哲学の授業の時に聞いた話だったはず)。彼はきっと、既に心を持っているし、実に人間的な悩みである。そのことに似ているかもしれない。
 このことについて、これ以上考えても無駄であろう。「雲をつかむような話」という比喩があるが、あれは、雲が水蒸気からできた水だからである。水を掴むことも、もしかしたらできるのかもしれないが。



 「小説をどうやって書いたらいいのか」という相談を時々――杉谷拳士がホームランを打つ頻度よりは少し多いくらいに――受けている。しかしながら、僕に相談すると、「とりあえず坐禅をして、普段の思考を眺めてみなさい。思考は、勝手に湧いてくるものなのだ。」みたいな話になる。あまり役に立たない。

 ということで(どういうことかわからない人については、わからないまま読んでほしい)、今回は読みづらい小説について考えてみようと思う。読みづらい小説を書くのは得意だ。
 読みづらい小説の条件としては、「知らない単語が出てくる」ということだろう。今回で言えば、杉谷拳士を知らない人は多かろう。「ここ数年でインターネットを騒がせている、野球の上手いお笑い芸人」ということであれば、知っているかもしれない(実際に、プロ野球チームに所属している選手である)。
 さて、杉谷拳士を知っていて「チノパン」という一般名詞を持つ衣類について知らなかった人間がこの世に(あるいは、別の宇宙にも)存在する。何を隠そう、この僕がそうだ。タイトルに『つくる』という名の入った小説を読んでいた際、「チノパン」についてわからないまま読み進め、そして、半分くらいのところで気になって調べたという経験がある。
  
 このように、あなたが当然のように知っている名詞を、他の人が知っているとは限らないのだ。

 ただ、ひとつ言える。知らない単語が多いが故に読みづらい小説は、オシャレに見えることもある。あなたが何を優先したいのか、よく考えてほしい。
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