大嫌いな、愛する夫へ捧ぐ。長いけど、全部読め。どうせ暇だろ?生きれる限り、生きろよ。

                    潮見レイより



 「男は妻が死ぬと何もすることが無くなる」とのことだから、私が先に死んだ時のために文章を纏めておいてやろうと思う。どうせお前は、新しい妻も持たないだろう。私の素敵な乙女たちのうちのひとりが同情して結婚しようとしてくれるだろうけど、それも断るだろう。お前はそういう奴だ。
 ジョン・レノンは、ファンを装った人間に射殺された。たぶん、元ファンだろう。私も、そうなるかもしれない。いつ死んでも別におかしくない。これからも、たくさんの乙女たちと密室に入る。いつ殺されてもおかしくない。そういうことだ。

 雑誌の連載とかで載せたものもここに載せるが、ここにあるのは編集の手が入る前のものだ。誤字脱字があってもそのままだ。あまり誤字脱字をしない方だとは思うが、何かあるかもしれない。そこに私を感じてほしい。お前なら、わかるだろ?
 
 そして、お前がKという名前で書いたものも、ここに載せておく。お前から見た私を、もう一度眺めてみてほしい。きっと、見方がいかに間違っていたかがわかるはずだ。

 間違っても、これを出版するなよ。お前のためだけに書いたんだからな。頼むぞ。まあ、お前が死んだら、どうなるかわからんだろうけどな。それはまあ、仕方無い。




 まず第一に、お前はやっぱりおかしい。なぜ、女である私に嫉妬するのか。「俺がやりたくてもやれないことを、いとも簡単にやりやがって。」などと言うのか。
 少なくとも精神的には男として生きてきたつもりなのに、自分が女であることを意識してしまった。男と女。子供を作れない、産めない身体だとしても、男と女。女の身体で行う女相手の素敵な恋愛を至高だと思っていたが、男と女の恋愛も楽しいと思ってしまった。穢れなき私の身体を汚した罪深い男。それがお前だ。
 お前は相当、私の素敵な乙女たちに恨まれている。そのことを伝えた時のお前は、笑っていた。そして、「実質BLじゃん。」などという訳のわからないことを言う、穢れを愉しむ種類の素敵な乙女たちが私を囲むようになっていった。この書き方は良くないとは思うが、お前しか読まないんだから良いだろう。
 正直、男と男の恋愛の何が楽しいのかよくわからない。お前は楽しんでたな、確か。誰だっけ、どこかのプロ野球の監督だとか、3億円を棄ててまでシアトルにまで意中の男を追いかけた男の話をしていた。ただ、お前自身が男と交わることはなかった。あの乙女たちと喋っていた時のお前は、同族たちが集まっている場で同族たちと喋っているだけだった。
 乙女たちのうちのひとりが、「Kさんを掘ってもいいですか?」と訊いてきた。「掘る」の意味がわからない私は、恥じらう乙女とよくわからない会話を繰り広げた後、了承してしまった。
 これが間違いだった。私の前では見せない顔を、あの乙女の前ではしていた。「あの恥じらいはどこに行ったのか」思うような表情でお前を攻める乙女と、それを受け止めるお前。その関係を眺めていて、とても嫌な気分になった。
 それでも、乙女を止めることはできなかった。お前もお前だ。それでお前のことを嫌いになった。しかしながら、愛してしまったものは仕方無い。離れられなかった。私の弱さを痛感した。
 まあ、お前が幸せならそれで良いか、とも思った。甘い。それでも、私が乙女たちに囲われる理由がその甘さであることはよくわかっている。しかし、お前にはもっと厳しくするべきだった。
 来世というものがあるのなら、お前みたいな奴には近付かないことにする。私がお前みたいな奴を相手するのは、この世だけだ。感謝しろ。
 地獄に行くことになれば、お前みたいなのがたくさんいるんだろうな。困ったな。口説かれるんだろうな。それでも、お前はすぐには来るなよ。鬱陶しいから。そう書くと、来そうだけどな。やめろよ。

 お前は、お前の記憶の中の私と生きろ。




 それにしても、よくゴーストライターなんてできるな。私には無理だ。私が作ったものは、私の名前で発表したい。クリエイターとしてどうかしてるんじゃないか。
 お前が書く詞、曲はよくできていた。あの乙女たちは私の声で泣いたのではない。お前が泣かせたんだ。そう思う。1人が泣けば、もう1人が泣く。連鎖するかのように。ステージで、そんな光景を眺めていた。そして、歌う私も泣きそうだった。隠せていたのだろうか。お前はわかっていただろうな。
 私が死んだ後なら、実はお前が曲を作っていたことを明かしてくれても構わない。というか、明かしてほしい。お前みたいな作家が、名を残せないまま死んでいくのはどうかと思う。ただ、お前はずっとKとして生きていくだろうから、名は残らないけどな。
 そして、私の綺麗な点だけを語っていくのだろう。まあ、素敵な乙女たちのことを考えたら、綺麗なままの私でいた方が良いだろう。汚物としての私を知るのは、お前だけでいい。
 それにしても、どうやって書いたんだ?まあ、お前は教えてくれないだろうな。いつもいつも、「君から聞いた話をもとに書いただけ。君にも書けるよ。」と言っていたが、重要な部分は教えてくれない。
 もしかしたら、自然にできるから、わざわざ言わなかっただけかもしれない。いや、お前がそんな天才なわけが無い。そうだろ?



 お前が作るメロディ、難しすぎ。練習でなんとかしたけどさ。私の歌唱力を過信してないか?
 まあ、お前は、「いや、でも、歌えてるじゃん」とか言うんだろうな。知ってる。とりあえず、他の歌手に提供する時のことも考えて、歌いやすいメロディを作れるようになっておけよ。どうせ、そういう仕事は来るだろうから。


 よくよく考えたら、お前が先に死ぬ可能性も結構あるわけだ。それならそれでいいのだが、この遺書を読ませる相手がいなくなる。それは困る。私も私で、お前が先に死んだら困る。私には素敵な乙女たちがいるからいいといえばいいのだが、それでも、汚物としての私を見せることができる相手はお前しかいない。
 私はまた、汚物としての私を内側に隠さないといけなくなる。誰にも見せずに。それだけは、嫌だ。
 
 それならば、あと何年かしたら心中でもしようか、とも思うが、お前は嫌だろう。「女遊び、見守っていようか?」などと言い出しかねない。嫌だ。絶対に見られたくない。一回見せたが、その時のお前が本当に気持ち悪かった。私の相手をしてる時よりも興奮しやがって。
 
 はぁ。お前とこうして仲良くなる前は、こんな問題無かったのにな。想像しただけで、淋しい。

 お前が書いた曲で、未亡人の話があるが、もしかしたらあれは、未来の私のための曲なのかもしれないな。
 
 そんなもの、作らないでほしかった。やっぱり、一緒に死のう。いつにするかは、決まらない。でも、これから先、ずっと一緒に……。いや、私が女と遊んでる時間は嫌だ。

 どうしよう。女遊びを辞めるって言ったら、お前、なんて言うんだろう。



 依存。その単語で現せる気がする。私は結局、お前に依存している。残念なことに。お前の方はどうだろう。私がいない時間、ひとりでいつも遊んでいるのだろうか。私のための、私の名前で発表される曲を作っているのだろうか。それとも、私の乙女たちと好き勝手やっているのだろうか。妊娠したあの子も、もしやお前が……。
 考えても無駄なことだが、結局のところ、私はお前と人生を終えたいらしい。前にも書いたか。それでもまた、書きたい。お前と一緒に、最後の時を迎えたい。それも、誰にも邪魔されない場所で。残念ながら、乙女たちも邪魔者になってしまう。ごめんよ。
 お前が作る曲は、「潮見レイにこうなってほしい」という意志が透けて見えるものになっている。そのままの私を、愛してくれているわけではない。わかっている。でも、別に、変化してほしいなどと言ったことも、確かなかった気がする。そういえば、あった。お前が大事にしているものを壊した時だった。
 「それくらいで怒らなくても」と思う私がそこにいた。どうせ、私の金で買ったものなのだから。ただ、買った後、お前は魂を込めていたんだな。たぶん、魂の一部を廃棄させられる気分だったかもしれない。ごめん。
 でもやっぱり、お前はおかしい。物に執着するくらいなら、私に執着してほしい。女遊びをしに行く私を、少しで良いから止めてほしい。私の能力に執着するんじゃなくて、私そのものに執着してほしい。

 もう嫌だ。さっさと心中してしまいたい。でも、なんで私は、この遺書を書いているんだろう。わからない。


 結局、誤字を見つけて直してしまった。はぁ。なんだろな、私。

 そういえば、お前との出会いは奇妙だった。ステージ上にいる私を、お前は、「何かを奪い取ってやろう」という意志を込めた目で見ていた。ような気がするだけで実際どうかはわからないが、そうだっただろう。というか、女だらけの客席の中で、お前は相当、目立っていた。その目立つ中で、お前は私を睨んでいた。わかるか?私がまだ、ブレイクする前のことだ。

 なんだっけ、サイン会の時、お前は相当、奇妙なことを私に言った。それが何だったかは思い出せないけど、私を揺さぶった。そして、後で控室に来るように言った。口元だけで、笑っていた。怖かった。

 その後の展開がこれだ。お前が作った曲を歌ってみたら、ライブに来る客がどんどん増えた。恐ろしかった。そして、またおかしいのがお前だ。「俺は作品解説なんてしたくないから、君が作った曲ってことにしてくれ。君なら、俺がどういう意図で詞と曲を作っているのか、わかるだろ?」などと言い出す。
 実を言うと、そう言ってくれて、当時はありがたかった。サイン会で乙女をガッカリさせないために。たくさん嘘をついてきたから。「貴女のために作ったからね」などという嘘を、乙女たちは信じてしまっていた。そんなこと無いとわかるはずなのに。「恋は、人を馬鹿にし、そして馬鹿にする。」と、お前はよく言っていた。その通りだった。ただ、私に向けられた言葉であることに気付いたのは、つい最近だ。
 ただ、お前もお前で、馬鹿だ。私みたいな奴の黒い部分を全て引き受けることになったわけだから。お前は表よりも、裏側を見ることになったのだから。この美しい潮見レイの裏側を知ってしまったわけだから。前と同じように、美しい潮見レイとして見ることはもう、できなくなってしまったわけだ。馬鹿な奴。客席だけでも酔えていれば、お前の人生はもっと面白かっただろうに。

 あと、ひとつ言っておく。「儲かった分は俺にくれよ。」とか、余計ことばっかり言うからお前は、私の相手しかできないんだ。本当はもっと、女にモテるはずなんだ。私の乙女たちだって、奪ってくれて構わないんだ。
 お前は本当は、かわいい女の相手をしたいだろうに。

 ただ、書いてわかった。お前が私だけのお前でなくなったら、私はたぶん、死ぬ。独占したい。お前に独占されていない私が思うのも、相当、変な話だけど。ただ、お前は私を独占したいとは思わないだろう。
 お前が好きなのは、女の相手をしている潮見レイなのだから。ただ、いまさら言えない。つらい。全部、お前のせいだ。お前が悪い。私に、余計なものを背負わせやがって。なんで、私のことを見に来たんだよ……。


 
 読み返していて、「そういえば、お前も他の女の相手してたな。掘られる側で。」と思い出した。2に書いていることを、自分ですっかり忘れていた。そして、嫌なことを思い出した。お前のせいだ。

 まあ、そんなことはいいんだ。この私に、「私だけを見て」という台詞を吐かせたお前は凄いんだ。そして、「え、なにそれ。君、いつも家にいないじゃん。ねぇ、レイちゃん、熱でもあるの?」といったふざけた返事をしたお前を、絞め殺したくなった。本当に体温計を持ってきやがって。
 絞め殺したらどうするかはわからない。そして、平手打ちをした後のお前、なんで喜んでたんだ。
 そして気付いた。ただのマゾヒストだと。「レイちゃんだけだよ」と言っているが、女からならきっと、誰からでも喜ぶのだろう。特に、私と女の好みは近いみたいだし。

 それにしても、お前は、どの私を愛しているんだ?そもそも、何一つ愛されていないかもしれないわけだけど。まあ、愛されていないとしたら、さっさと心中してしまった方が良い気がする。



 「宇宙って、無数にあってさ。俺が女として生きてる宇宙もあるわけ。そして、レイちゃんが、女としての俺ひとりだけを愛しているような宇宙もね。そして、汚らわしいことに、レイちゃんが男を囲っている宇宙も。まあ、あるわけだ。残念ながらね。」などとお前が言っていたのを思い出した。間違えているかもしれない。
 非常に困ったことを言い出すものだ。まあ、この私は、お前を虐め倒してみることにするよ。

10
  『恋はヘロイン』。これは、潮見レイ作詞作曲の大ヒット曲。しかし、実際に書いたのはお前。完全に、私を馬鹿にしながら書いた曲だ。そうだろう?
 恋というヘロインに溺れた、表面上ではクールな王子様が裏ではとんでもないことになっている、という曲。潮見レイの裏側を知らない人間が聴いて、「潮見レイの多面性」を勝手に見出し、あれこれと考察する人間が後を絶たなかった。そして、訳のわからんうちに売れた。
 そして私は「作品解説になっているとは到底思えないポエム」を作品解説として吐き続けることになった。そして、勝手に観衆が意味を考え、そして語り、の繰り返し。ポエムを吐くのは得意だ。何千人の女を落としたと思ってる。いや、数を数えてないから、実際には千人ちょっとかもしれないけど。

 そしてお前は、「まあ、レイちゃんが歌うからだよね。俺の仮歌、微妙でしょ?「訳わからん男が訳わからんことを歌ってる」くらいにしか思わないでしょ?そういうこと。凄いのはレイちゃん。ってか、そろそろ作詞やったら?できるでしょ?作曲だって、僕じゃなくていいはずだし。まあ、他の人がゴーストライターやったら、後で大変なことになるだろうけど。それでもまあ、レイちゃんも作曲やればいいんじゃないかな。」などと言った。できるか。まあ、仮歌が微妙だったのは本当だが。ただ、作詞作曲については本当にできない。というか、お前も聴いただろう。
 あの程度のものしか、私には作れない。お前は、お前の能力を過小評価し過ぎなんだ。あえて、二重表現を使いたくなるくらいには。

 本当に、ムカつくやつだ。やっぱり、私が息の根を止めておいた方がいいんじゃないか。

 やっぱり、一緒に地獄に行きたい。天国でも別に良いけどさ、お前、どうせワイン飲み過ぎるだろ?弱い癖に。まあ、死んだ後なら大丈夫か。そのための天国だし。
 
 
11

 6で ”「それくらいで怒らなくても」と思う私がそこにいた。どうせ、私の金で買ったものなのだから。ただ、買った後、お前は魂を込めていたんだな。たぶん、魂の一部を廃棄させられる気分だったかもしれない。ごめん。”と書いたが、あれは結局、ゴーストライターとしてのお前が稼いだ金なんだよな。悪かった。いや、本人に言えよと思うだろうけど、伝えるのは私が死んだ後で良い。心中するとしたら……。え、どうしよう。
 この話は、結構大きな話をしている気がする。ゴーストライター問題で前に誰かが揉めていたが、あれも金の問題だった。揉め事になっても困るから、訊きに行ったのだが……。
 「ねぇ、レイちゃん、膝枕お願い。疲れた。」といきなり言ってきた。私は困惑した。もちろん応じたが。意外と、お前もかわいいんだな、と思った。私の膝の上でのお前は、飼い猫みたいだった。昔飼っていたタロウに似ている。懐かしい。タロウのこと、もっとかわいがればよかったと思って、頭を撫でた。気持ちよさそうにしているお前にキスをした。嬉しそうにしていた。お前を見てると、たまに、女の子かなと思うこともある。たぶん、女の身体だったら、私の乙女たちの中に埋もれていた。一晩限りだったかもしれない。危なかった。
 
 そしてお前は、「曲作るの、もう辞めたい。疲れた。レイちゃんと添い寝してたい。」と言い出した。そう、お前は疲れると、私に甘えてくる。さっきも「別にいいけど」と、そっけなく返したが、本当は嬉しい。この遺書を見て、お前は驚くのかな。それとも、知ってるのかな。それとも、「別に毎日したいわけじゃないから、これくらいがちょうどいい」のかもしれない。たぶんそうだ。お前、ひとりになりたがるもんな。
 「本当は、ずっと一緒にいたいんだよ。」と、いつ言えるのか。言えないまま死んでしまっても、この遺書には書いてある。しっかり読んでくれよ。

 でも、たまにでも、そばにいてくれて、ありがとう。

12
 
 11を読み返し、消したくなった。しかしまあ、取っておこう。お前が見たいのは、私の恥だろうからな。だからこそ、消したいわけだけど。

 そういえば、私の乙女のうちのひとりがうちに居座ろうとした時があった。あれは確か、冬のこと。その時のお前は、「ああ、俺は極力部屋に篭もるから、後はお好きにどうぞ。でも、リビングと廊下は使うから、見られたら困ることをするなら、鍵のかかる部屋でやってね。よろしく。」と言った。ふざけるな。追い出せ、お前が。
 しかしまあ、お前の言い分もわかる。追い出そうとしたら、お前は悪者になってしまう。と思ったら違った。5日くらい経ってあの子が帰った後、「君たちの声、最高だった。にしても、なんで防音室でやらなかったの?ま、レイちゃんは優しいから、聞こえるようにしてくれたんだよね。ありがとう。」などと言い出した。

 防音室は音楽の練習のために作ったのであり、そういうことのために作ったのではない。お前が作った歌いづらい曲を練習するために作ったんだ。その場でそんなことを……。それと、何をしているんだお前は。もしかして、部屋に篭ってても聞こえた?

 そういえば、お前が作った曲、色んな女が歌っているみたいだ。動画サイトに行くとたくさんある。いや、「あった」になっているかもしれないが。お前に聴かせてみた時、「レイちゃんが一番なんだよなぁ。まあ、レイちゃんのために作ってるからね。にしてもなー、みんなこの曲、レイちゃんが作ってると思ってるのか。なんとなく申し訳無いからさ、レイちゃんも早く曲作ったら?作詞だけでもやりなよ。」などと言った。
 ちなみに、男が歌っているのを聴く度に、何かを奪われている気がした。上手くないものに関しては別だが、売れそうな歌に仕上がっているものを聴く度に、「お前は本当はこのように歌いたいんだろうな」と思う。
 でもお前は、「レイちゃんみたいに歌いたいんだよね。まあ、ソックリにやっても意味無いし」と、うだうだ言うんだろう。知ってる。

13

 私の名前の由来を親に訊いてみたことがある。母は「知らない」と言い、父は伊集院レイという人物について教えてくれた。そして、「あいつ(母のことだ)には黙っておいてくれ」と。まあ、わかる。そうだろうな。そして、思ってた以上に期待通りだったらしい。
 私の親はなかなかにおかしい。でも、最高の親。そう思う。お前のところはどうだっけ?
 
 そう言えば、お前の人生について、あまり知らない。教えてもらうとするか。


14

 「そうねぇ……。野球が上手くないことで、色んなところから拗れて行ったんだと思う。まあ、遺伝とか、色んな要因ってあるじゃん。向いてることをやっていても、結局は野球をしたくなったんだよね。まあ、レイちゃんと一緒にいられるなら、別になんでもいいけどね。そういえば、昨晩はどんな女を……」

 お前はそう言ったが、よくわからなかった。ただ、私も私で、どこか拗れている。最高の親だけれど、私が望んでいたような愛情は貰えなかった気がする。

 まあ、仕方無い。完璧な人間などいないのだから……。

15

 サイン会。恐ろしいことを訊いてくる女がいた。「あの、もしかして、旦那さんが書いてます?『恋愛の時間』の歌詞。女性にあれが書けるとは思えないんですよ、どうしても。あなたの旦那さん、気前良く曲を貸してくれそうじゃないですか。それと、あのインタビュー記事と同じ匂いがして……。」と。眼鏡の奥の表情が怖かった。
 上手く誤魔化せたか、わからない。でも、私は誰のために、誤魔化したのだろうか。私のためだろうか。いや、私は、お前が作ったとわかった方が良いと思っているのだが。でも、お前は隠そうとする。しかしながら、なんでインタビューになど応じたのか。

 お前は「え、いや、だってさ。女と女の恋愛を眺めたり、その話を聞きたい男もいるってわかった方が、女と女の恋愛が増えそうじゃん?潮見レイの夫なわけだし、俺。」と答えた。

 お前にとっての人生は、何なのだろうか。一生、わからないと思う。

16

 15で書いた眼鏡の女を食べた。それで、『恋愛の時間』は潮見レイが作詞作曲したものだと納得したらしい……。いや、もちろん、眼鏡の女の最初の直感が正しかったわけだが。

 お前が「男の雑味」の話をしてくれた時のこと、覚えているか?「実際の男は、達人でもない限り、君みたいに丁寧に動かない。もっと、動きが飛んだり、軸をその場に保ったまま動くものだ。まあ、俺の動きは参考にならないけど。」といった感じの内容だったと思うが。
 そして、その言う通りに動いた。「性欲のせいで動きが乱れた」ということにして。そしたら、騙されてくれた。「男のような性欲を、あなたも持っている」と。なんということだろうか。

 しかし、この話を今のお前にしたら絶対に調子に乗るから、ここに書いておく。それにしてもまあ、ただの備忘録になってないか?この遺書。読み返していて、私が読んでも面白いなと思う。およそ、何を書いたかなんて忘れてしまうし。
 
 ちなみに、食った女の話はなるべくしないことにする。そんなことをしても、お前が喜ぶだけだ。そのために書いてるわけではない。


17

 お前がうるさいから作詞作曲をして、いつもの編曲家のところに持っていった。そしたら、「これ、旦那さんが作ったでしょ」と返された。なんということか。ちなみに、今までは全く何も言われないどころか、「君らしい良い曲だ。」と言われる。毎度毎度。
 という話をお前にしたら、「へー。じゃあ、俺が歌おうかな。面白いじゃん、それ。その曲は俺が作ったことにしとくね。」などと言い出した。
 
 あの時の私は頷いたが、本当は嫌だった。私が初めて作詞作曲した曲だぞ!はぁ、なんで、本当に作った曲は、お前の曲になってしまうんだ……。いや、それ言ったらさ、私名義でお前が作った曲が大量にあるんだよな……。はぁ、なんでお前に振り回されてるんだ……。まあ、どうせお前も振り回されてるって言うだろうし。振り回し合う関係というところだろうか。

 不思議なことに、私の曲を歌うお前、活き活きしてるんだよな。なんだろう、「潮見レイにできないことをやってやる」みたいな、そういう感じにも見える。まあ、私、一応、女の身体で生まれてるし……。一応?

 で、これを読む頃のお前は忘れてそうだから書いておくが、「潮見レイの夫のデビューアルバムとして」、「私が書いて、お前が歌った曲たち」は結構売れた。まあ、私のほどじゃないけどな。

 ちなみに、その編曲家には後ほど、「正直って、大事だよね。」と言われた。いや、嘘ついたら正直者扱いされるって……。ひとまず、お前のありがたさがわかった。私が嘘をついてるかどうか、しっかりわかるからな。いや、たまに困るけど。

18

 そういえば、お前の苗字、潮見なんだよな。私と同じ。結婚するってなった時、「潮見になりたい」と言い出したんだ、お前が。うーむ、なんでそうなったのか。まあ、都合良いけどさ。旧姓とか、めんどくさいじゃん。お前はまあ、関係無いだろうけどさ。
 そして、Kって確か、お前の苗字から取ったんだよな。「旧姓を少しでも感じられるように」とかいう名目で。時々、K-潮見と表記されたりするが、あれは旧姓と今の苗字が合わさったものになっている。なんなんだ。
 そういえば、お前の下の名前、なんだっけ?長らく呼んでなかった。お前って呼ぶか、Kって呼ぶか、だいたいどっちかだからな。まあ、公の場で、うっかりお前の名前を出さないためにも、忘れたままでいいか。
 にしても、夫の名前を知らないって……。たまに困るんだよな。まあ、いいか。ずっと家にいるのは
お前だし。な?

19

 「7日間、仕事も女遊びもしない。ずっと家にいる。」とお前に告げたところ、また体温計を持ってきやがった。そして、ビンタされて喜ぶお前を眺めて、何故か安心するようになってしまった。うーむ、何故だろう。ちなみに、訊いてみたところ、「レイちゃんがビンタする相手って、俺くらいでしょ。デュフフ。」と、何やら気味の悪い笑い方をしていた。はぁ。
 
 まあ、この7日間が楽しかったわけだ。いや、なんで私、女遊びしてお前を放ったらかしてるんだろうと思うくらいに。あの時のお前は、本心ではどうだったんだろうか?私の骨にでも語りかけてくれ。いや、つまらなかったなら、何も言わないで。

 お前は、どんな私を見せても、たいていは受け入れてくれる。ただのマゾヒストなのかもしれないが、まあ、どうなんだろうか。お前が相手していた女の話を聞く限りでは、お前がS側なんだけどな。と思って訊いてみたら、「理想のSがいなかったから、Sをやってただけだよ。レイちゃんと結婚できてよかった。」だとさ。本当なのだろうか。お前の言葉は、どうも信用できない。嘘つくの、どうせ上手いだろうし。っていうか、なんで、ゴーストライターをやっていることを隠し通せるんだ。
 はぁ、こうして書く文章が、元々の潮見レイに近付いていく……。まあ、どうせお前しか見ないんだし、どうでもいいか。いや、でもお前、出版しそうだな、これ。やめてくれ。頼むから、やめてくれ。恥ずかしいから。
 
 それでも、恥ずかしい私も、お前になら見せられるんだな。よかった、お前と結婚できて。でも、大嫌い。「まだ大丈夫なの?君の乙女たちは?」とか訊いてくるんだもん。まだ5日目だったのに。お前のことだけ考えていたかったのに。
 
 やっぱり、最後は心中する。死の3日前くらいにこれを読ませてやることにしよう。それでいいだろう。もし、もっとしっかり相手してくれるなら、心中はやめにして、しっかり二人で生きる。そうしよう。でもなぁ、なんでさ、お前、私の恋愛遍歴を聞きたがるんだ?わからん。もういいだろう。50人目くらいから、もう話すの飽きてるんだが……。まあ、お前が喜ぶから、話しちゃうんだけどさ。


20

 「レイちゃん、なんでそんなに女にモテるの?いや、そうじゃないか。どうやったら、そんなにモテるようになったの?」とお前が訊いてきた。「私の恋愛遍歴を聞いて、何が楽しいんだ?」と訊いてみた時に、お前がそう訊いてきた。「レイちゃんが抱いた女の話を聴く度に、レイちゃんのことが深くわかっていく感じがする」とも言ってたな。

 「わからない。それより、添い寝して。」が私の答えだったけど、この遺書の中では教えておく。申し訳無いけど、お前がモテないのはもう仕方無い。お前は本当に、マニア向けの存在なんだ。というか、色々とおかしいんだ、お前は。お前で喜ぶのは、たぶん私くらいだ。あ、いや、いたなぁ、おかしいのが。なんだっけ、2に出てきたアイツ。あれ以降、お前には一度も会わせてないと思う。コッソリ会ってるかもしれないけど。それは無いといいな。

 それよりだ。お前、どこでその技を身に着けた。私を快楽漬けにしてるの、お前くらいだぞ。はぁ、そういえば、「男の味も、人生で一度くらいは知っておくか」ってことで始まったのに、もう何十回目なんだろう。1週間空けたりすると、お前さ、少し休憩を挟んで何回も何回もやるじゃん。応じる私も私だけどさ。
 はぁ、嫌いだ。でもなぁ、愛しちゃったから、しょうがないんだよな。

21

 「レイちゃん、既にできてると思うけどなぁ。ああ、君の乙女たちに教えたいのね。相手の心の穴を、丁寧に丁寧に触ればいいんだよ。というかなんだろう。えーっとね、そもそも、相手の心にどうやって侵入するかだけど……。レイちゃんの場合はさ、歌ってる時の感覚でいればいいんだと思う。相手にどうやって、自分の感情を届けるか。それでしょ。」

 そう言ってたお前を直後に襲って快楽漬けにして、とても楽しかった。泣いてたな、お前。かわいかった。大好き。

22

 2の乙女、まだお前と交わろうとしている。黙って襲っておいた。お前、モテないなんてことは無いんだよな。やっぱり。私が近付けないけど。
 でもなぁ、みんな、私に捨てられそうになると言うこと聞くんだよなぁ。私、そんなに怖い?

23

 「レイちゃんはいつでも怖いよ。」というのが、「私のことが怖くなること、ある?」に対しての、お前の返答。「レイちゃんがビンタする時、気持ち良いくらいに手加減してくれてるのも知ってるよ。」と言われた私は、気付いたら本気でビンタしてた。あれは本気だ。MAXだ。でもお前、まだ手加減してると思ってるんだよな。
 違うよ。お前相手にはできないんだ。なんだかんだ、大事だから。はぁ、心中、本当にできるのかな。私だけ死んだら、お前、悲しむんだろうな。悲しまなかったら、それはそれで、一生呪ってやるけど。私のこと以外を考えられなくしてやる。

24

 「レイちゃーん、助けてー。」と、気の抜けた声でお前が言った。何かと思えば、構ってほしいと。なんだそれ。心配して損した。「言われればいつでも構うのに。仕事の時以外なら、いつでも。」と、口から出そうとしたら、出なかった。いや、本当は、仕事だってサボっていいんだよ、ライブ以外なら。レコーディングもまずいかな。あるじゃん、よくわかんない打ち合わせ。あれはサボっていい。

 もしかして、お前、寂しいけど、それを誤魔化してたりするのか?いや、それは私もなんだけどさ。なんだけど。どうしようかな。
 
 あとさ、お前が本気で私のことを好きなの、やっとわかったよ。やっと。ごめん。

25

 「女遊びはそろそろ辞める」と言った時のお前、驚き過ぎ。あのカップ、高いんだぞ。なんてことを。いや、いいんだけどさ。
 口では嫌がりながら、表情は喜んでたからな、お前。これを読んで思い出せよ。あ、そうだ。「気持ち良かった。好き。」って言いそびれた。しょうがないじゃん。まあ、伝えるのは、お前がこれを読む時でいいか。

26

 これ書いてる時、ヒヤヒヤするんだよなぁ。お前がいきなり覗き込んできたらどうしようって。少なくとも、今のお前には絶対に見せたくない。いや、でもなぁ。伝えるべきことは伝えた方が良いんだろうな、とは思うわけで。変な気分になるのは、ずっと一緒にいる人間相手に伝えてないことがあるっていうこと。まあ、ヘソクリみたいなものだと思ってほしい。良い遺産だろ?


27

 「レイちゃんごめん。」と言いながら、お前が襲ってきた。いや、我慢しなくていいんだって。でもさ、私、不機嫌になってたよな、最近。言い出しづらかっただろうな、きっと。って、またここに書くんだけど。言えない。だからなんだろうな、私から言わないと、何も始まらないの。いつもいつも、言い出しづらそうにお前が言って、私の気分次第で始まって。そうなんだよなぁ。
 
28

 今度は私から襲った。どうだった?好きって何回も言ったけど、届いた?答えは、私の骨にでも言ってくれ。いや、やっぱり、無し。明日訊こう。

29
 
 「やっぱり、襲われる方が楽しい。」と、お前が言い出した。なんだよもう。「私も」って言うか、迷ったじゃん。もう。嫌いだ。

30

 風邪引きやがって。なんだよ。襲ったのは、一緒に風邪引きたいからだからな。でも、体温高い方が気持ち良いって、本当なんだな。なんだろう。やっとお前、素直になってきたよな。

31

 風邪引いてたから書けなかった。なんだよ、お前だけさっさと治りやがって。でも、看病されるの、よかった。そして、レコーディング延期。もういいや。印税だけで十分だろ。ギター欲しいってお前が言わなくなったからな。っていうか、今ある分の半分で十分だろ。お前、別にレコーディングに参加しないし。そもそも、別にギター上手くないし。
 ってお前に言ったら、「え、レイちゃんが稼ぐ印税、そんなに少ないの?ってか、どのくらい貯まってるの?」って。そういえばそうだ。あの曲、お前が作った曲なんだよな。すっかり忘れる。ギター買うより、貯めた方がいいと思うんだよね、金は。だってさ、お前、無駄遣いするじゃん。お年玉を没収してきた母の気持ちがわかったよ。やっと。

 それはそうと、もう31なんだよな、この遺書。何気なく番号振ってたけど、そうなんだよ。よくぞまあ、ここまで書いたものだ。ただまあ、私が死んだ後のお前に言いたいことはまだまだあって……。いや、毎日毎日増えて行くんだよ。今のお前には言いたくないことが。
 でもなぁ、どうするんだ?私が死んだ後にこれを見て、お前が後悔したら嫌だな、とも思うわけで。困ったものだ。まあ、見せないけどね、今は。


32
  
 「ねぇ、レイちゃん。俺と結婚して、よかった?」と、お前が訊いてきた。勿論なんだけど、なんだかなぁ。訊かないでも、わかってよ。

33

 「レイちゃんどうしよう。レイちゃん、歌が下手になってる」とお前が言い出した。「たぶん、女遊びしてないから」とも。聴いてみても、よくわかんなかった。別に私、耳は良くないし。
 「作る曲の傾向を変えてみる」とのことだが、どうなるか。ただ、そろそろ私が曲を作ってもいいのかな、と思う。今なら、書けると思うんだ。お前に向けて書けば、いいんだろ?そうだろ?

34

 また曲作りについて訊いてみたら、「詞先でやってみたら?」とのことだった。というか、お前もそうしてたのか。早く言えよ。こっちの方がやりやすいんだから。
 

35

 「ああ、やっと、潮見レイが歌うための曲を潮見レイが作ったんだね。」とお前が言った。「ただ、今まで聴いてきた人は、あんまり良く思わないかもね。まあ、違う傾向のライブをやったり、アルバムを作れば良いんじゃないかな。」というのも付け加えて。よかった。

 ただ、「自分で作った曲を初めて人前で歌う」という感動を共有できるのが、お前しかいないのが虚しい。まあいいか。秘密って、そういうことだもんな。

 でもなぁ。意外とアッサリだったな。なんだよ、詞先かよ。でも、あれだな。似た者同士なんだな、私達。


36

 「レイちゃんがずっと家に居るって、凄いことだなぁと思ってたんだけど、慣れてきた。なんというか、やっと安心感に安心できるというか、なんというか。」とお前が言った。私に抱き着きながら。今までのは何だったのだろうか。でもまあ、変な夫婦生活だったなぁ。
 妻が女遊びをし、夫が待つ。こういう家庭、他所にあるのかなぁ。ただ、我が家はもう、違うんだよな。
 「我慢してたの?」と訊いてみたら、「そういうわけじゃないけれど……。でも、レイちゃんが家に居ると嬉しい」と答えた。なんだ、我慢してたんじゃん。かわいいけどさ、なんだろう。
 そして、乙女たちをどうするか、一切考えてなかった。うーむ、どうしようか。

37

 「他の女の匂いがする」は嬉しそうに言う台詞ではない。感想を訊いてくるお前にビンタしてそのまま寝たけど、やっぱり、女の身体は良い。お前の身体にはもう飽きた。まあ、お前なら見てわかっただろうな。

 お前が待っててくれるのって、本当はありがたいことなんだけど、でも。でもね。いや、いいや。

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 匂いからどんな女を抱いてきたのかを予想するな。当たってるよ。気持ち悪い。どこでそんな訓練を受けたんだ。
 お前が女だったら、良い妻になったんだろうな。でも、私みたいなのに食われて、ポイ捨てされる。男が相手では満足できなくなって、私の幻影を追い掛ける。哀れだな。

 よかったな。お前はお前で。