「後頭部見られるとムカつくから授業聞いてやったんだよ。感謝しろ。」
授業が終わってすぐの第一声がこれだ。
「あ、他の人が質問に来てるから、後にしてくれる?」かわいい生徒たちが冷たい目でこっちを見ている……。僕は悪くない。僕は。
「は?アンタ、私に何か言える立場なわけ?たかがテキトー小説家風情が何を言うか。」
「うーん、その台詞、どこで仕入れたの?」ナベツネの迷言を、何故知ってる。あと、声怖いよ……。
「アンタが野球好きなの知ってるから勉強してきたの。あと、アンタがオススメしてた小説も読んだ。でさ、あの方法以外でなんかないの?」
「とりあえず、これ読んどいて。」前回のアレを手渡した。
「しゃーねーな。待っててやるよ。かわいい女の子たちとイチャイチャしてな。」

 冷たい目線を多方向から感じる。まあ、これも、人生だな。
「てんてー、あのこわいおんなのひとだーれー?もとかのー?じゅぎょーちゅー、ずっとにらんでたよー。」ふわっとした生徒Aが声を掛けてくる。他の生徒たちは帰ってしまった。喋るのは下手だが、書くと凄いんだこの子は。まるで、脱ぐと凄い女のように。いや、やっぱナシで。脱ぐと凄い人、別に興味無いし。
「違うよ。前回の後、話し掛けてきたんだけど、なんかさー、うーん。ノーコメント。」
「のーこめんと?わたしにかくしごとするのー?てんてー、ひどい。」唐突に泣くなよ。ふたりきりの時にしてくれ。

 「少女よ、教えてやろう。こいつは、生徒に色目を使ってくるドンデモネーやつなんだ。あんまり近寄るなよ、酷い目に遭うから。こーゆー奴はな、色んな女を泣かせて悦に浸るんだ。」
「でも、おねーちゃんも、てんてーにちかづいてるよね?なんで?ひどいめにあっちゃうよ?いいの?」
 はぁ、鋭いな。頼む、渡すものは渡したし、お帰りしていただく方向に…
「は?お前は黙ってろ。」 そりゃねーだろ……。と僕は思った。


 「でさ、どう書けって言うんだよ。」
「快楽のために…ってあったじゃん?あれの続きを書けばいい。」
「だーかーらー、それができないから訊いてるんじゃんよ。使えねーな。」
「快楽のために生きるのか。生きるために快楽があるのか。それとも……。」
「は?何いきなり。」
「『は?何いきなり。』が二行目ね。そこに書き足して。」
「しゃーねーなー。」
あれ?字、綺麗なんだな。

 「で、そっからなら書ける?」
「書けねーよ。」
「じゃあさ、快楽のために生きるのか。生きるために快楽があるのか。どっちだと思う?」
「ん?なんかさ、もっと簡単なテーマ無いの?私にもわかりそうなやつ。」

 「おねーちゃんは、なにがかきたいのー?」あれ?とっくに泣き止んでた。ってか、忘れてた。
「なんだ小娘。そうだなぁ、うーん、アンタには言わない。」
「なんでよー。」
「なんでアンタに言わなきゃいけないのよ。」
「だってー。てんてーじゃおしえられないもん。てんてーのはなし、おねーちゃんにはむずかしいから。」
「はぁ。そうかぁ。そうだよな。えーっとねぇ、女と女の恋愛の話。」
あれ?馬鹿にされてるのに怒らないのな。ま、いいか。
「わー!わたしもおんなのこだーいすき。ねーおねーちゃん、きすしよー。」
「ん?まあ、いいけど……。いや、こいつの前では絶対に嫌だ。」
「てんてー、ちょっとかくれててー。みちゃだめだよ?」
「他の部屋にでも行ってろ、テキトー小説家。」
 やれやれ。僕は教室を追い出された。ま、ちょーどいいや。マールボロを吸いに、喫煙所に行くか。

 「あ、先生どうも。」誰だっけ?喫煙所にいる女から声を掛けられるイベント?なんだこれ。
「あ、どうも。」
「先生の授業を取ってる者です。あの、さっきの、大丈夫でした?絡まれてましたけど。あの子、一回暴走し始めたら止まらないから……。」誰だっけ?
「まあ、わりと。ところで、あの子の友達?」
「友達……。できれば、卒業したいんですけどね、友達。」はぁ、案件だ。
「はー、ここにもコイスルオトメが。あいつのどこがいいのかねー。」
「何言ってるんですか?あの子、ずっと先生の話をしてたんですよ?私、もうあの子のことを諦めようかと思うくらいには……。」
「それは無いよ。だって……。あっ、」言っちゃいけない話だ。
「だって?」
「ごめん、言っちゃいけない話。言ったら、裏切りになってしまう。でも、僕があの子と恋愛することはありえない。それだけは本当。」
「先生……。女同士って、どう思いますか?」ああ、ここにも授業を聞いてない奴が……。
「君はどう思う?」
「難しいと思います。だって……。」
「難しいということは、可能性がゼロではないということだ。渡久地東亜が言っていた。」
「えっ。」

 「ま、頑張ってね。あの子はさ、君よりも高い山を登ろうとしてるみたいだからさ。」
「それって、あっ、待ってください。」

 僕の授業、どうしようかなぁ。訳わからん話をして、誰もわかってないならしゃーないしなぁ……。