小説と、人生の遊び方。 川崎・J・悠太 (旧登録名: 川崎・G・悠太)

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2019年02月

頭を使い倒す面白さを味わうコーチングセッション

 あなたは本当に、「自分の頭で考える」ということができているだろうか。

 「自分の頭で考える」ということを「できているような気にさせる」ことが上手い人も多いこの昨今、「自分の頭で考えるということができていると思い込んでいる人」にあなたがなっている可能性がある。それは勿体無いことだ。

 更に言えば、既に「自分の頭で考える」ということができている人であっても、更に使い倒すことができる。

 さて、このコーチングセッションの本当の目的は何か。「頭を使うことの面白さ」を味わってもらうためである。「悩むことが娯楽になる」。

 「1時間だけ教わっても、できるようにならないのではないか」と思う人も多いだろうから、1枠5時間とした。コーチングセッションの時間そのものも、トレーニングの時間になる。ぜひ、楽しんでほしい。

 「テンプレート通り、マニュアル通りのコーチングをするのはもう飽きた」と思うようなコーチの方にもぜひ来ていただきたい。

・時間・料金 
5時間20万円

・場所
都内某所または通話

・申し込み用メールアドレス
painlessmental@gmail.com


・特典
メールコーチング1ヶ月無料


※注意 
 今まで信じていたものが信じられなくなることによる不具合が出る可能性もあります。その場合に備え、「何も信じなくても面白い人生を歩む方法」を授けておきます。その必要が特にあるような人は、事前にお伝え下さい。

自分のお世話が一番大変

 「趣味:人助け・人のお世話」みたいな人がいます。金を貰わないで(時には払う側になりつつ)、ずーっと、人のお世話をしています。まあ、困っている人を助けるのは、良いことでしょう。しかしながら、やり過ぎてしまうというか、なんというか、余計なことまでしてしまう人がいます(私も、その傾向にありました)。

 そういう人に、「いいから、自分自身のお世話をしなさいな。人助けを効率よくやりたいなら、それが先決ですよ。」と言うと、困惑します。あんまり、やったことが無いからです。
 そして、たくさん宿題を与え、人助けをしない状態にさせて、自分自身のお世話をさせてみると、「人助けよりも大変だ」と言い出します。慣れるまでは、だいたいそうでしょう。

 なんで大変かと言うと、「どこまでやっても、「上手くできていない」ということがわかってしまう」からです。あとは、「恩を売るのは良いことだ」という下駄も履けないからです(恩を売る対象が自分自身ですからね)。つまるところ、「なんのためにやってるんだかわからなくなる」、「何かを成し遂げたという実感が無い」ということです。
 
 
 そして。ある意味では、人のお世話をしている間は、「自分自身のことを考えなくても済む」ということが挙げられます。解決「したい」問題であっても、放置できてしまうのです。だから、人のお世話をラクに感じられることが多々あるのです(もちろん、相手によってはラクじゃないお世話もたくさんあるのですが、お世話すべき相手がたくさんいる場合、ラクな相手を優先することで、ラクじゃない部分を綺麗に避けることができてしまいます)。

 
 「ラクをして生きたい」と思うのであれば、そのままの方が良いと思います。しかしながら、面白い瞬間を生きたいのであれば、「あんまり使ったことの無い箇所」に、「適切だと感じられる負荷をかける」方が良いでしょう。
 「適切」というのがわからなければ、「とりあえず耐えられるギリギリ」くらいの感じです。ただ、つまらないと感じるならば、違うことをやってみてください。

 自分自身に対するお世話であれば、負荷の調節もしやすいです。手始めに、「やりたいやりたいと思ってたけど、忙しさを理由にやっていなかったこと」をやってみてください。人のお世話を一旦中止すれば、いくらでも時間はありますよ。


 ちなみに、この記事に書いたようなことと真逆のことをした方がよい人も、当然います。私がコーチングという名目で人と関わる時は、その辺もしっかり見ています。第三の選択肢というのも、あるでしょう。
 
 
メールアドレス painlessmental@gmail.com

小説『歌わない風』



 「完璧な人生などといったものは存在しない。完璧な文章が存在しないようにね。」という、どこかの小説で読んだようなフレーズ―それもまた、模倣に見えないようなものであればあるほど良いと思っていた―を最初の行に書きたくなってずっと考えていたのだが思い付かない。そして、そのまま書くことになった。そういう流れだったのだ。
 50℃くらいのお湯でカップラーメンを作る際には、3分では足りない。3分というのは、熱湯を注いだ際の時間設定だからだ。しかしながら、それを待てなくなって、硬い麺のまま食べた。そのような心境である。ある意味ではポティトー・チップスのような歯応えであり、それは僕に歓迎されるもののような気がする。

 そして、僕の食事は、その後の喫煙のためにあるかのようなものであった。マールボロは辞めて、パイプ煙草を吸うようになった。複数の缶、及びパウチ―「石油由来の包」と言った方が適切かもしれない―を空け、その時の気分で選んでいる。
 今回の気分は、サミュエル・ガーウィズ『フル・バージニア・フレーク』であった。薄い板状になっている煙草をパイプに詰め、火を点け、丁寧に吸ったつもり、だった。マールボロとは違い、煙草の機嫌に合わせないことには、良い味は出ない。しかしながら、拗ねた少女のような味わい深さも、そこにはある。味が良いか悪いかは、置いておいて。
 香料を使わず、そして、バージニア葉のみを使用した逸品なのだが、如何せん技術不足で、上手く吸える頻度は低い。守備の良さだけで試合に出続けている捕手の打率くらいに確率をようやく乗せることができた。「2018年シーズンにおける、読売巨人軍でのコバヤシの打率くらいの確率」という固有名詞を出した方がわかりやすいだろうか。コバヤシを知らない人がこれを読んでいる時のために説明すると、「3割打てれば上出来と言われている中で、コバヤシは特に打てない」。それだけのことだ。



 そういえば、僕はこの人生の中で『クソ野郎』と言われ慣れている。そう、言われ慣れてしまったのだ。最初に僕に言ったのは、誰だっただろうか。忘れてしまった。まあ、仕方無い。
 僕が不機嫌な時、あるいは、不機嫌な相手を見て「面倒だな」と思った時、人間関係が切れる。それはまるで、茹で過ぎた太い麺のように。重力に耐えられなくなった様が、僕の人間関係をよく示している。ただ、切れる様子が見えるのは良いことであろう。命綱が切れていることに気付けないよりは、よほど。そのような人間を、よく見てきた。命綱が切れそうだとわかれば、交換すればいいだけのことだ。人間関係も、同じこと。
 僕にとっての人間関係とは何なのだろうか。少なくとも、人間関係を「長く続けよう」とすると、おかしなことになる。コミュニケーションというものは一期一会だ。そのことを、しっかりと覚えておこうと思う。アドリブセッションみたいなものだ。
 偶然にも、あるいは、運命的に長く「続く」人と長く関わればいいだろう。



 僕が何故、小説を書いているのか。ある時の僕は、「自分自身を見るため」などと言っていたように記憶している。
 今の僕は結局、自分で読むための小説を書いている。そのことは間違い無い。自分で書いた小説が一番、読み心地が良い。まあ、当たり前だろう。パクチーとチーズが好きな人間がパクチーとチーズを使った料理を作り続け、そして食べ続けているのと同様に、僕は僕が好きな要素を用いた小説を書いているに過ぎない。
 当然、弊害がある。パクチーとチーズを使わない料理について、どんどん疎くなっていくのだ。外食をする際にはラーメンを食べるものの、あとは、パクチーとチーズを使わない料理について食べることもなければ、見ることすら無い。あるいは、料理番組を見るにしても、「この料理にパクチーとチーズを入れたらどうなるか」だけを考えるようになるのだ。

 そうなってしまったが最後、違う傾向の小説を書けなくなる。僕で言えば、「風景描写」という食材を使わなくなる。書き手(作中でエッセイあるいは日記―僕が小説を書く際、架空の誰かが書いたエッセイまたは日記を書くつもりで小説を書いている。「別の宇宙から受信する」という言い回しをすることもあるが、その場合、手が勝手に動く感覚で書いている―を書いている人間)が、なかなか自宅の外に出ないからだ。あるいは、風景について、興味が無いか。心情描写だけが為される。
 しかしながら、よくよく考えてみたら、そんなに多彩な作風で書ける必要など無いのだ。漫画であれば、月刊誌に一本連載するだけでも重労働である。手塚治虫の真似をできるのは、「漫画を書かないと死ぬ、あるいは、生きている意義を見出だせなくなる病」に羅患した者だけだ。
 「ひとつの作品を完成させるまでは、ひとつの作風だけを維持する。」これで十分なのかもしれない。しかしながら、飽きてくるのだ。

 もし、僕が「登場人物だけ変えて似たような作品を少しずつ書いているような小説家」に見えるのであれば、今回分(3という数字と4という数字の間に書かれた文章に挟まっている文章のことである)の内容が原因かもしれない。同じような食材で、違う料理を作ろうと四苦八苦するようなものだから。



 この文章は僕にとってはエッセイなのだが、あるいは別の宇宙の人間が、これを小説として書いているかもしれない。いや、僕がこうして考えついてしまった時点で、その宇宙は存在している。
 「宇宙が複数ある」という話は、確かクリプキという哲学者によって明示されたはずだ。クリプキという哲学者が存在しない宇宙の場合どうなるのか、とても気になるところではあるが……。

 さて、時々考えることなのだが、「何故、この宇宙の僕として、僕は存在しているのだろう」というテーマが存在する。別の宇宙の、それも、今理想的に設定した別の宇宙にいる僕―自由に使える金が無限と読んで差し支えないくらいにあり、それを有効活用し、最大限人生を楽しんでいて、なおかつ、なろうと思えばすぐにでもメジャーリーガーになれるくらいの運動能力を持っていて、別の宇宙になど行きたくないと思っている僕、というのが最初に思い付いた―として今存在していれば、そんなに都合の良いことは無いのだが、何故かそうも行っていない。これもまた、神の粋な計らいなのだろうか(神がいるかなんて知らないが)
 そういえば、神がどうとかという話をしている中で、「神が脳を作ったとすれば、なんでこんな造りにしたのかしら」という疑問が浮かんだ。いや、どこかの本で読んだのを思い出しただが。
 別の宇宙にいる「完璧な造りをした脳を持つ僕」を考えてみて、「もしかしたら、もっと雑味が欲しくなるのかもしれないな」と思ったが、実際どうだろう。ただ、「何も不満を持たない僕」も、別の宇宙に存在するわけだから、特に何がどうなっているかについてはわからない。

 さて、あれこれと考えてみたわけだが、結局のところ何が言いたいのかはわからない。あるいは、何も言いたくなかったのかもしれない。わからないことについては、少しはわかったかもしれない。


 
 「何も不満を持たないということが不満である」ということも、あるいは有り得るかもしれない。ただまあ、その場合は、「不満を持っていないこと」それ自体が不満ということになるのだが……。
 そういえば、「僕も心が欲しい」と思うようなロボットが以前どこかにいたらしい(哲学の授業の時に聞いた話だったはず)。彼はきっと、既に心を持っているし、実に人間的な悩みである。そのことに似ているかもしれない。
 このことについて、これ以上考えても無駄であろう。「雲をつかむような話」という比喩があるが、あれは、雲が水蒸気からできた水だからである。水を掴むことも、もしかしたらできるのかもしれないが。



 「小説をどうやって書いたらいいのか」という相談を時々――杉谷拳士がホームランを打つ頻度よりは少し多いくらいに――受けている。しかしながら、僕に相談すると、「とりあえず坐禅をして、普段の思考を眺めてみなさい。思考は、勝手に湧いてくるものなのだ。」みたいな話になる。あまり役に立たない。

 ということで(どういうことかわからない人については、わからないまま読んでほしい)、今回は読みづらい小説について考えてみようと思う。読みづらい小説を書くのは得意だ。
 読みづらい小説の条件としては、「知らない単語が出てくる」ということだろう。今回で言えば、杉谷拳士を知らない人は多かろう。「ここ数年でインターネットを騒がせている、野球の上手いお笑い芸人」ということであれば、知っているかもしれない(実際に、プロ野球チームに所属している選手である)。
 さて、杉谷拳士を知っていて「チノパン」という一般名詞を持つ衣類について知らなかった人間がこの世に(あるいは、別の宇宙にも)存在する。何を隠そう、この僕がそうだ。タイトルに『つくる』という名の入った小説を読んでいた際、「チノパン」についてわからないまま読み進め、そして、半分くらいのところで気になって調べたという経験がある。
  
 このように、あなたが当然のように知っている名詞を、他の人が知っているとは限らないのだ。

 ただ、ひとつ言える。知らない単語が多いが故に読みづらい小説は、オシャレに見えることもある。あなたが何を優先したいのか、よく考えてほしい。

小説『妻が雇ったメイドに「クソむし」と呼ばれる僕を、妻が羨ましがっているのだが』



 これは僕の妻の話である。と言いたいところだが、妻が雇ったメイド。その人がある種の主役である。僕はただの記録係―ある意味では、ある種のエッセイストとも言えるかもしれない―として位置する。はずだが、どうなるかはわからない。
 思い出した話から、昨日や今日起きた出来事を、好き勝手に記述していく。何のために書くのか。妻が、「俺がいない間、美雪ちゃん(メイドが持つ名である。当初、僕は”みゆき”という名を苗字だと思っていた。僕が読んでいる野球漫画に、御幸という苗字の捕手が出てくるからだ。)からお前が何を言われたか、記録しておいて。俺の友達に読ませるかもしれないから、一応、そのつもりで。」などと言ったからだ。
 妻が用いる一人称は俺であり、メイドの美雪ちゃんが使う一人称は私。そして、記録係としての僕。各々が異なる一人称を用いていることは、この記録において好都合である。ちなみに、妻は美雪ちゃんから、「ご主人様」と呼ばれる。僕もいずれ、ご主人様と呼ばれたいのだが。

 そして、僕が「妻からの司令」を遂行できるのかどうか、些かの不安がある。記憶力には自信が無いからだ。しかしながら、僕にとって重要、あるいは、面白いと感じるような事案であれば、覚えていられるだろう。少なくとも、2017年における岡田幸文の打率よりかは、確率は高いはずだ。



 1を妻に読ませてみたところ、「何を言ってるのかわからん」という反応を戴いた。まあ、仕方無い。僕は僕でしかないのだから。やれやれ、僕は買ったばかりのパイプに詰めたセント・ジェームズ・フレークに火を点けた。

 さて、本題に移ろう。今日言われた言葉はこれだ。

 「はぁ、ご主人様は、何が良くて、こんなクソむしと結婚したんでしょう……。私の方が良い結婚相手ですのに……。まあ、ご主人様の決定は絶対ですから……。」

 僕は「あるいは」と返事して(某小説家の作品によく見られる返事である。特に意味の無い返事だろうと思う。)、そのままゲームの世界に戻った。『実況パワフルプロ野球15の栄冠ナイン』でピンと来る人にはピンと来ていただければいいし、あるいは、知らなくても構わないのだが。

 さて、妻は何故、僕にあんなことを命じたのだろうか。理由を尋ねてみたところ、「俺も美雪ちゃんからクソむしと呼ばれたいから、その参考に。」とのことだ。わからない。何が嬉しいのだろうか。サッパリわからない。とりあえず、マゾヒストか何かなのだろう。
 そんなことも知らず、美雪ちゃんは妻に懐いている。隙あらば抱き着いて、愛の言葉を囁いている。僕はその光景を見る度に、妻と結婚して正解だったと思う。

 ちなみに、「頼めば呼んでもらえるんじゃない?」と訊いてみたところ、「美雪ちゃん相手にそんな、恥ずかしい」と返ってきた。ますますわからない。「代わりに頼んでみようか」と訊いてみたら、「一応……。」と返ってくる。難しいものだ。



 「ご主人様がそんなことを言う訳無いでしょう?このクソむし」と返ってきた。なんなら殴られそうだったが、殴られた跡でも残そうものなら、きっと妻に嫉妬されて面倒なことになる。その嫉妬はおそらく、薔薇の棘のように僕を突き刺すはずだ。つまり、危険である。
 「恥ずかしいから言えないんだってさ」と言うと、「クソむしは嘘つきでもあるのですね……。クソむしがご主人様の夫というだけでも重罪ですのに……。」などとボソボソと言った。運良く僕はそれを聞き取り、そして、こうして記録している。

 ひとまず、「両方共ご主人様だと紛らわしいけど、僕がクソむしと呼ばれなくなったらどうなるのだろう」などという懸念は、意味の無いものとなったと考えていいだろう。

 ちなみに、妻は非常に面白い人間だ。家には仕事を持ち込まない主義とのことだが、とりあえず金を稼いでいることはわかる。そして、共感性が薄い(ミラーニューロンが弱いとも言い換えられる)ことから、組織内での権力を強く持っていることも推測できる。
 そして、高い知能を持っている。そして、男性的、ある種では、父性を持った存在である。理想の父親ランキングに出たら、うっかりランクインしてしまうのではないか。そう思う時もあるが、生憎、妻はテレビに出たがらない。そして、出ない。
 ちなみに、僕の家庭内でのポジションは、「家事をしない主夫」である。家事は全て、メイドの美雪ちゃんがやっている。ただ、何もやらなくていいというわけでもない。この記録も、僕の家庭内での役割である。

 あと、今気付いた。クソむしと嘘つきで韻を踏める。ラップの際、便利だ。しかいながら、ラップについてはよくわからないのだが。



 「おいクソむし、掃除の邪魔だから、どっか行って来い」

 メイドからの有難い言葉(ついに、敬語を使われなくなったということを、無意識に受け入れていたことに気付いたのは、だいぶ後の話である)を戴き、僕は外出した。タバコ屋でパイプを選ぶとしよう、ということで。
 妻と結婚してからというものの、僕のパイプコレクターとしての才覚が開花してしまった。妻から毎月毎月、結構な額を戴いているからだ。ちなみに、妻も美雪ちゃんもパイプを吸う。
 ちなみに、葉巻は性に合わない。何故なら、湿度管理などいうものは誰もできないからだ。時々、湿度管理の必要無いドライシガーは吸うものの。

 それにしても、妻と美雪ちゃんのキス、美しいんだよなぁ……。永久に見ていたい。と、歩きながら思っていた。そして、良いパイプを買えた。



 「あのさぁ、お前さぁ、そんなこと考えてたのか。」と、4までを読んだ妻が言った。「どのこと?」と訊くと、「キスだよキス。お前さ、そんな目で美雪ちゃんを見てたのか。」と、お怒りであった。
 「そういう目で見れば、美雪ちゃんからクソむし扱いしてくれるんじゃない?それも、僕の前で。」と言ってみた。頷いた妻は実行し、そして、美雪ちゃんの目がいつもと違った。僕の目も忘れて、美雪ちゃんは妻の身体を貪っていた。とても美しい。



 翌日、3人での会話は重々しい雰囲気であった。妻が居心地悪そうにしているのを見た。「話と違うじゃないか」という目線がこちらに送られたような気もしたが、まあ、気のせいだろう。
 妻からすると、美雪ちゃんに踏まれたいらしいのだが、美雪ちゃんはそんなことをしたくない。できることならば僕を排除した上で、妻ともっと親密な関係―それこそ、恋人とか―になりたいのだろう。

 その後、妻に確認を取ってみたのだが、やはり、マゾヒストなのだそうだ。ただ、マゾヒストとしての才覚を発揮するのは、相手が綺麗な女性の場合に限るとのこと。僕との関係性は、よくもわるくもフラットだ。結婚の理由も「戸籍上男で、親友と呼べる奴だから」くらいの感じだった気がする。男女の関係よりも、ボーイズラブに近いかもしれない。外から見たら、どう見えるんだろうか。
 僕としては、生活の保証さえしてくれれば何だって良いのだけど。いや、最高に面白いってのもあるのだけど。「面白い」がメイン。
 ちなみに、セックスレスとやらではない。よくもわるくも、僕が身に着けてきた技に頼りがち、なのだが。

 そして、「綺麗なメイドさんを雇って、マゾヒストとしての快楽はそちらで味わおう」などと思っていたらしいのだが、そういうわけには行かず、そして、「夫がクソむしと呼ばれている」という状況にあるため、日頃から僕は嫉妬の対象になっている。僕が要らないと思うもので嫉妬されるのは、少し困る。
 僕は僕で、美雪ちゃんの髪に触りたいのだ。それを叶えたいという点では、僕も妻に嫉妬している。そして、妻は髪に興味が無い。ちなみに、妻の髪を洗うのは僕の係だ。ただ、美雪ちゃんの髪の方が、綺麗だ。触りたい。

 よくよく考えたら、この3人で欲求を叶えているのは、美雪ちゃんだけなんじゃないか。確かにそうだ。妻の身体を好き勝手にしてるじゃないか。いや、僕もしてるけど、それよりも、美雪ちゃんの髪に触りたいのだ。

 ちなみに、僕が美雪ちゃんから暴行を受けていない理由はただ1つ。妻の指示により、止められているからだ。何故止めているか、本当は、「羨ましすぎて耐えられないから」だそうだ。



 妻が美雪ちゃんのスカートを捲った。それを眺めていた僕に対して、「おいクソむし、見るな」と美雪ちゃんが取り出したばかりのハーゲンダッツのように冷たい声―味の話はしていない。あくまで、温度の話だ―で言った。そして、妻はガッカリしていた。「俺に向けて言ったわけじゃないの?」と。
 そして、ガッカリした表情を美雪ちゃんが見て、「下着、違う方が良いですか?」と、恥じらいを見せながら言った。
 「違うんだ。君のご主人様はね、美雪ちゃんに蔑まれたいんだ」と口に出すか迷った僕は、何事も無かったかのように、読みかけのニオ・ナカタニに視線を戻した。

 それにしても、女と女の愛情は、面白い。自分で体験できないのが、辛いほどに。



 6で書いた「話と違うじゃないか」というのは、それだったらしい。妻は結局、「どうすれば美雪ちゃんから蔑まれることができるのか」で頭を悩ませ続けている。僕にはどうしていいのかわからない。
 とりあえず、3人でいる時に「何故、僕をクソむしと呼ぶことになったのか」を訊いてみたところ、無言で睨まれた。そして、妻に無言で抱き着いた。

 ひとまず言えることは、このままだと僕は、妻からもクソむしと呼ばれることとなるか、あるいは、この結婚生活が終了する可能性が存在するということである。つまるところ、役立たずなのだ。
 困った。しかしまあ、この役立たず加減が、クソむしたる所以であろう。人生とは、そういうものだ。

百合小説 『瑚』 (公開執筆中(つまり、順次更新中))

 当時の私は、瑚子さんを警戒していた。母が心を許せる唯一の相手が、瑚子さんだった。父の前では決して見せない顔を、母は瑚子さんの前では見せていた。
 瑚子さんは、私の名前の元になった人でもあった。"瑚"という字は、宝物を意味するらしい。そして、母にとっての宝物は、瑚子さんだった。

 大事にしてほしかった。それでも、私は私でしかなかった。母の宝物には、なれなかった。

 それが、私。

 
 瑚子さんは、こんな私に優しくしてくれた。何のつもりだろうかと思った。親友の娘だからだろうか。それとも、奪われた者への哀れみだろうか。

 今思えば、同じ傷を抱えていたのかもしれない。

§ 

 ある日、瑚子さんと私だけで喫茶店に行った。いつのことかは忘れてしまったが、今では絶滅危惧種となった、純喫茶と名乗る店に行ったということは覚えている。何故、純喫茶を選んだのかはわからない。

 日記でもつけておけばよかったなどと思っても手遅れである。手遅れだから、いや、手遅れだからこそ、私は今、ここに記しているのかもしれない。日記でもなんでもなくなってしまったが、忘れてしまう前に書いておきたい。


 あの日の私は、母と父、そして私の関係について瑚子さんに相談していた。いや、違った。優しく接してくれる人の本性を暴こうとしていた。

 人が人を試す時、同時に、人は人に試されている。私はその日、傷を見せ付けられた。瑚子さんの古傷と、私の傷。そして、それを思い返す私が、新たに作った傷。未来と過去が、傷によって繋がる。

 「莉瑚ちゃんは、お母さんのことは嫌いなの?」
「嫌い」 
「じゃあ、いなくなればいいと思う?そうなったら、私は悲しいけれど、莉瑚ちゃんはどう?」
「困る」
そんな会話だったと思う。何を言うんだろうと思った。そして、もし、その困る事態になっても、瑚子さんが助けてくれるなら別に良い、とも思っていたような気がする。本当に助けてもらえるのか、確かめていた。

 今思うと、親友が家庭で上手く行っていないということを、その親友の娘から聞くという、中々に重々しい状況であった。もし私が同じ状況に立ったら......。想像したくない。

 しばらく続いた沈黙が、あの時の私の人生を示していた。結局、私は誰のことも信じられないし、信じてもらうことも無いのだなと、あの時の私は感じていた。それでも、瑚子さんは、何かあったら連絡してほしいと言った。

 その何週間か後、何かあった。私が寂しさからか、私のことを好きになった男と付き合うことにした頃。
 
§  
 
 私の最初の彼氏。思い出したくもないが、あいつは私のことを……。何をどうやったら、あんなふうに人にさわることができるのだろう。とにかく、嫌だった。別れる時、殴られた。痛かった。5歳の頃の私が捨てたあの人形も、あんな気分だったのだろう。

 殴られた三日後、そのことを瑚子さんに言った。この前の純喫茶で。瑚子さんは私よりも怒っていた。なんで瑚子さんが怒るんだろう。当時の私には、わからなかった。
 
 店を出た直後、頭を撫でられた。心の中まで丁寧に撫でられているかのような柔らかい手の感触。人生で初めて、私がこの世にいていい存在なのだと思えた。

§
 
 あの時から徐々に、瑚子さんのことを考える時間が多くなった。どんな人生を歩んできて、今までにどんな恋人がいて、とか、色々と考えていた。それでも、いつかは裏切られるんだろうと思っていた。

 そして、裏切られた後の私がどうなってしまうのかを考えるようになった。
 
§

 人を信じるということ。裏切られるということ。このふたつのことをよく考える。私が人を裏切る日は来るのだろうか。そもそも、誰かが私を信じることはあるのだろうか。瑚子さんは......。

§

 そういえば、父はよくわからない人だった。今となっては、更にわからない。何故、母と結婚することになったのだろう。瑚子さんはたぶん、私の両親の結婚式に行っている。写真は残っているのだろうか。たぶん、無いだろうな。

§

 夢に瑚子さんが出てきた。恋人として一緒に1日を過ごす夢。ずっと前から瑚子さんと恋人だったかのような息遣い。瑚子さんの膝で寝るよりも、私の膝の上に瑚子さんがいる方がドキドキする。好き。幸せな時間。
 一緒に布団に入って、明日は何をするか話して、眠くなって寝た。そして、目が覚めたら、私は私に戻っていた。明日の約束というものは、果たされないものである。虚しい。
 初めての彼氏の一件の頃の私も、似たような夢を見ていたことを思い出した。こっちの世界を捨てて、瑚子さんの恋人をやっているあの世界に帰りたいと思う。

 しかしながら、人生はそう都合良く行くものではない。時々、都合良い人生を歩む人もいるらしいけど。

§

 何を書けばいいのか、思い出せなくなってしまった。正確には、思い出したら今を生きるのをやめてしまいたくなるから、思い出したくないのかもしれない。ただ、瑚子さんと過ごした記憶を書いておかないと、未来の私が困る気がしている。あの時も、何かするべきだったんだ。

§
 
 また、夢を見た。瑚子さんが中学生くらいで、私も、同じくらい。瑚子さんが私の膝の上で気持ちよさそうに寝ている。瑚子さんの頭の重さを感じる。頭を撫でてみた。きれいな髪。ずっと、触っていたい。今だけは私だけのもの。そうしているうちに、眠くなった……。

 あ、しまった。と思って起きて、仕方無く、これを書いている。文章を書いて読み返してみて、感覚が蘇る。そういえば、母に写真を見せてもらったことがあった。夢は記憶を合成したものだと言われているが、その写真と同じ顔だった。もしかしたら、「その時の母と入れ替わりたい」という願いが叶ったのかもしれない。しかしながら、短い時間で終わってしまった。今の人生を、辞めてしまいたい。

§
 
 あの夢を見てから、暇さえあればずっと寝ている。私が歩みたかった人生を、夢という形でなら見ることができる。しかしながら、良い夢を見ることができない。宇宙人に連れ去られた夢は面白かった。そのくらいだろうか。
 「思い出す」という行為の虚しさを痛感している。そこに体感は無い。だから、書きたくても書けない。否、もう書きたくない。しかしながら、書くしかない。書かないと、過去は過去として、流れ去ってしまう。

§
 街角で綺麗な女性に、「タイムマシンが完成したら、どうしますか?」と訊かれた。私は結局、答えられなかった。答えたら、すべてが壊れてしまう気がして。

§
 知らない女との情事の夢。つまらなかった。

§
 なんということだ。瑚子さんが書いた記事を見付けてしまった。20歳の時に書いた記事だという。「劣等感まみれで生きてきたが、そのおかげで今がある」という内容。
 そんなこと言ったら、私はどうなってしまうのだろうか、という気分になった。それでも、瑚子さんの謎がひとつ解けた。瑚子さんはやっぱり、同じ傷を抱えていたのだ。そう、きっと。
 
 私には瑚子さんという逃げ道があったから、無能なまま、無能として生きてきた。そんな気がする。それでも、人生は人生なんだなって思った。さて、お酒飲もうかな。

§

 昨日の私がお酒飲もうかなと書いて、数少ない友人の望帆ちゃんと飲み始めて数分経ったところまでは覚えている。覚えているのだが、その後の記憶が無い。部屋が荒れている……。何したっけ……。

§
 望帆ちゃんは怒っていた。「私の初めてを奪っておいて覚えていないのか」、と。なんのことなんだ。そういえば、ベッドから望帆ちゃんの匂いがする……。そういうことなのか?いや、でも、まさか私が。
 それはそうと、瑚子さんって良い匂いだったなぁ。あれ?記憶が出てきた。なにこれ。


§
 出てきた記憶。書けない。これは、書いちゃいけない。でも何か書きたいから書く。
 
§
 そう書いた私は、全力で逃げた。記憶からも、私からも。


§
 過去の自分。未来の自分。今の自分。それぞれ、違う自分のような気がしている。20歳の頃の瑚子さんは、傷と向き合っていた。私は、ここまで、向き合わずに来てしまった。
 未来の私は、この傷を、どういうものとして見ているのだろうか。

§
 占いを受けた日のことを思い出した。あの占い師の占いは、よく当たった。しかしながら、インチキだった。通っていた小説教室の先生だったのだから、色々と知っていて当然である。最後の最後で、そのインチキを明かされた。声が違うだけで、あんなに印象って違うんだな。前はボイストレーナーをやっていたとか言ってたっけ。うーん、何者なんだあのひとは。

 うーん、色々と恥ずかしくなってきた。筒抜けじゃないの。思い出して気付くってのも、遅いし。でも、理解がある人でよかったな。ありすぎて気持ち悪いくらいだけど。そういえば、あの先生は女と女の恋愛を小説にしているんだった。もはや、それしか書かない。あの先生、やってきた恋愛が滅茶苦茶だったとか言ってたなぁ。うーん。

 「本当は女として女と恋愛したかったけど、まあ、男に生まれたことだし、まあ、そうね、客観的に女と女を眺めることができてよかったかなぁ。あー、でもなぁ……。なんというかさー、男ってだけで警戒されるしー……。」と、授業の時に、うだうだ言ってたのを思い出した。警戒されるのは、その見た目のせいだと思う。あと、笑い過ぎ。なんで、自分が言ったことに笑えるんだろう。馬鹿みたい。
  
 あの時の先生だと知らずに「女と恋愛したい。それも、近くにいる素敵な人と」と私が言った時、占い師としてのあいつはとても嬉しそうにしていた。お前のためにやってるんじゃないのに。

§
 などと書いた翌日、久々の再会。あいつ曰く、「ちょうど会いたかったんだよねー。」とのこと。知るか。しかしながら、いつもの喫茶店に行くこととなった。
 そこで恐ろしいことを知ることとなった。この胡散臭い奴は、20歳当時の瑚子さんのことを知っているという。なんということだ。早く言えよ。いや、「え?君、瑚子さんと関係あるの?」と言ってたし、私が言わなかったのもあるか。でも、これでインチキ占い師がインチキ占い師であることがハッキリした。占い師なら、そんくらいわかるはずだから。 
 
 瑚子さんはやっぱり、私が思っている瑚子さんとは違うらしい。朝起きたら3限だった話とか、本当にずっとTwitterやってたとか、色々と教えてくれた。今のTwitterと当時のTwitterが全然違うことも。それにしても、なんでそんなに嬉しそうなんだ。気持ち悪い。
 
 そして、「瑚子さんと結ばれるのが難しいなら、とりあえず、他の女食っちゃえば?」などとも言ってきた。なんだこいつは、と思いつつ、既に食っていることを思い出した。覚えてないけど。とりあえず、望帆ちゃんでいいか。
 などと考えていたら、「あっ、狙えそうな子いるんだ。よかったね。」と言い出した。そこだけ読み取るな、気持ち悪い。
 うっかり口から出てしまったが、奴は笑っていた。マゾヒストなのだろうか。

 そして、奴が別れ際に、「本当に目指すべきものを諦めないように。意外と、どうにかなるものだから。特に、君みたいな女はね。」と言って、上機嫌なまま帰っていった。気持ち悪い。


§
 「言い忘れていた。瑚子さんは女と恋愛をする気は無いそうだ。君が何かを捻じ曲げるしか無い。まあ、違う女で満たそうとして、それで物足りなかったら狙えばいいさ。やはり、練習量が物を言う。ただ、丁寧にやらないと意味は無いが。そういえば、百人斬りしたのに下手だった女がいたなぁ。懐かしい。」
翌日に書店で遭遇した際、この長い台詞を口に出していた。昨日から言う練習をしていたのだろうか。そうだとすると、何故私のことを考えているのだろうか。
「あのねぇ、私のこと、どうしたいわけ?」
「女と女の面白い話が聞ければなんでもいいよ。君はまさに、その面白い要素を持っている。」と奴は、これから何やら面白い映画が始まる時のような表情で言った。そして、こう続けた。

 「君がやるべきことは、相手がこの世に存在している意義を肯定すること。生きててよかったという感覚を感じさせること。そして、快楽の沼に落とすこと。快楽の沼を心地良い空間に保つこと。ただただ、それだけ。実験台がいるなら、まずは実験台にやってみてほしい。」
 これを聞いて私が思ったことは、「こいつはこれまでの人生で何をしてきたんだろうか」ということ。やっぱり、あまり関わってはいけない人物なのかもしれない。

 
§
 
 最悪だ。何故だ。何故私のもとからあの女は離れない。何故、踏まれて喜ぶんだ。何故、出血して喜ぶんだ。「莉瑚ちゃんのためなら何でもする」と言っていたから、家に帰っていただくように指示したら、本当に帰ってしまった。まあ、邪魔だったからいいや。とりあえず、瑚子さんのことを思い出そう。
 と思ったら、あいつの言葉がフラッシュバックする。ちょうど、少し前に書いたことだ。もしかしたら、私も望帆も、「この世に存在している意義」を探しているのかもしれない。そういえば、あいつ自身はその問題をどうしたんだ?訊いてみよう。



 少しだけ、莉瑚に代わってこの文を書くことになった。やれやれ。僕はマールボロに火を点けた。
 莉瑚は僕の最高の教え子である。なんといっても、こんなに面白い話を持ってきてくれるのだから。読んでみて、直したいところはいくらでもあった。いくらでもとか、そういう次元ではない。しかしまあ、大事なのは内容なのだ。少なくとも、僕にとっては。 
 
 女と男、女と女、そして、男と女。この3つはいずれも違う。僕はただ、添え物でありたいのだ。あるいは、女になってしまえばいいのだが、そう簡単な問題ではない。身体の方を改造しても、「男でなくなる」だけである。しかも、僕は「自分の心と身体両方が女ではないこと」を熟知している。そう、性別違和などは別に存在しないのだ。そこにあるのは、憧れだけである。

 ただ他方で、ある種の同族嫌悪も、そこにはあるかもしれない。

 さて、本題。人生には超えるべき山がある。しかしながら、その山は遠くから見た方が良い場合もある。高くて綺麗な山ほど、登る人間が多いからゴミが落ちている。誰が片付けるのか、という話だ。登りづらい山ほど、片付けが大変なのだ。

 山はいくらでもある。しかしながら、登りたくなったら仕方が無い。人生とは、ある意味でそういうものだ。

 それはそうと、「気持ち悪い」と思う相手ほど、自らの人生に濃く根深く影響を与えるものなんだよね。よくもわるくも。

そういえば、みほちゃんの字、望帆って書くんだね。うーん、よみづらいけど良い名前だなぁ。



 はぁ、本題が一番意味わからないっての。やっぱりあいつは、気持ち悪い。

§

 望帆から連絡が来た。メチャクチャにしてほしいとのことだ。「既にメチャクチャだよ、お前は」と送ったら、「もっと」と返ってきた。はぁ。あのインチキ占い師に押し付けるか。

§
 奴は抹茶ラテ、私はブレンドティーを注文した。いつもとは、違う店。
 「すると、君は沼の底まで沈めるかのように依存させた女を僕に押し付けたいと。」奴は欲しかった玩具を買ってもらえた子供のような満面の笑みで言った。
「他にある?」私がいつものように棘のある声で言う。あの時の私は、特に機嫌が悪かった。
「それはつまらない。僕は女同士が見たいだけだ。あ、そうだ。君らがヤッてるところを見たいんだ。目の前で。それがいい。そうしよう。」
「嫌に決まってるじゃん。アンタに裸を見せるなんて。」勿論嫌だ。絶対に嫌だ。
「君は全く脱がなくていい。脱ぐのはその子だけで十分。どうせ、君が攻めなんだろう?」
「そうだけど……。」何故知ってる。
「何故かって、受けの側が依存させるって、よっぽど良い声とか、よっぽど触り心地が良いとかじゃないとありえないから。君の声も魅力的ではあるけど、依存とは違うんだよね。たとえるなら、うーん……。」
「たとえなくていいから。そうじゃなくてさ、なんで私の心の中が読めるの?」
 奴はずっと考え込んだ。あれ、まつ毛、長いんだ……。

 「言ってしまえば、僕の経験則かな。ただ、それだけ。僕はたくさんの過ちを犯してきた。過ちを犯して反省するのも大事だけど、それだけだと、ある種勿体無い。何かしら得たものはあったはずだから。そして、恩であったり、得たものは、どこか違うところに送るものだからね。本人に返しても、本人にとっては当たり前のことだから。」
 良いことを言っている……のか?
 「まあ、僕は結局、僕でしかないんだ。残念ながらね。」
「だからなんだよ……。」
「特に無いよ。ま、そんなわけで、今日大丈夫?望帆ちゃんは呼べばどうせ来るだろうけど、君の都合は。」ウキウキしてやがる。
「そもそも、承諾してないんだけど。」
 奴は考え込んだ後、こう言った。
 「瑚子さんを”攻略”したいなら、君が持ってる技を見ておく必要があるんだけどね。」
「いいよ、しなくて。アンタに頼ってできたとしても、何ひとつ嬉しくない。」
 奴は笑った。そして、言った。「やっぱり君は、最高だ」と。
 そして、奴に望帆の連絡先を押し付け、ブランデーを買って帰宅した。あれ?私はなんで、ブランデーを飲み始めたんだっけ?

§

 ふと気付く。奴は、「この世に存在している意義」に答えていない。それが訊きたくて、奴に文章を書かせたというのに。また、訊かなくてはならない。

§

 いつもの喫茶店。いつものメニュー。
 「ああ、それね。快楽のためだよ。他に何があるの?」奴はこう言った。そしてこう続けた。
「人間ってさ、快楽を飼い慣らすことに成功した唯一の動物なんだよね。まあ、制御しきれてない奴もいるけど。昔の俺もそうかな。でさー、哲学とかその辺やってる時に感じる快楽って凄いのよ。神の声が聞こえる時もあって、あの快楽は凄くて……。」
 と、こんなことを言っていたような気がするが、あまりに長くて途中から聞くのをやめていたからここに記せない。ただ、覚えているのは、
 「越せないと思い込んでいる山を越す手段を思い付いた時に感じるあの感覚。あのために生きている。」という言葉。これは深く私の中に残った。何故だろう。

 「そういえば、望帆ちゃん、相当凄いことになったよ。今度、密室で会ってみて。」と奴は言った。

 嫌な予感しかしない。

§
 書きたくない出来事が起きた。私は私を辞める。そう記しておく。奴のせいだ。全部、奴のせいだ。


§

 「責任取れ、ねぇ……。僕、実は既婚者なんだよね。ごめん。あ、でも、僕の素敵な妻が君のことを食べてくれるよ。大丈夫だ…」
「そんなこと言ってない。望帆だ望帆。望帆に何した?」
「あー……。えーっと、僕の技を味わってもらった後に、その技の解説をした。え?もしかして、凄く良かったの?あの子の技。」
「……。そうだよ……。」
「あー、僕はやっぱり、教えるのも上手いのか……。はぁ、罪な能力を持ってしまったな。この技教えるの、はじめてなんだけどなぁ。」
「ってか、望帆に何したのよ。何?あんたと間接的にでも何かしたってこと?気持ち悪い。」
「指だけで、しかも、ゴム手袋をした上でやったけど……。それでも嫌?」
「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。  ……。トイレ行ってくる。吐いてくる。」

 と、こんな会話をした気がする。やっぱりあいつは、最低だ。早くこの世から去ってほしい。いくら謝っても無駄だ。私の人生をメチャクチャにしやがって。なんで私が。なんで私が。なんで私が。

 一瞬、鏡に映る私が見えた。もう一度覗き込んだ。この顔の私なら、好きかもしれない。私が私を嫌いだったのは、感情を亡きものにしていたからかもしれない。哀しみも憎しみも、怒りも苦しみも、そして、恨みも。全部、私なんだ。私はやっと、私になれたんだ。


§

 久々に丸一日寝た。また、寝る。

§

 望帆から連絡が来てた。はぁ、無視しよ。寝る。

§

 瑚子さんが夢に出てきた。80歳くらいの姿だろうか。綺麗なおばあちゃん。私の姿は今のまま。頭を撫でられて、やっと、救われた気分になった。でも、うたた寝して、起きたら……。また寝る。

§
 どこか目線の強い女性。誰かに似ている。誰だろうか。まつ毛が長い。
そんな女性に襲われた夢だった。快楽に浸り、「生きる意味」とやらが見えた気がする。それでもどこか、「嘘」があったような気がする。何故だろう。
 「夢が覚めたらわかるよ」と、その女性は言った。その時に気付いた。あいつだと。
 あいつが男だから嫌なのか、それとも、あいつの性根が嫌なのか。それがその夢で気付いた気がする。あいつもあいつで、闇を抱えている。

 それでも、あいつを許したわけではない。

§

 夕方目が冷めたら、隣に望帆がいた。私もあいつも全裸だった。怖かった。

 「えへへー。ピッキングしちゃったー。」などと、気の抜けた声で言っていた。髪の毛を掴んで、引っ張った。痛がりつつも喜んでやがる。引きちぎるか、根っこから抜いてやろうかと思ったが、思ったより頑丈だった。諦めた。

 「連絡無いから、心配したんだよ?」とあいつは言った。
「もう縁を切りたいから連絡しなかった」と言うと、耳を舐められた。水音が響く。抵抗するだけの力を全て奪われて、結局……。ここからはもう書かない。

§
 一週間くらい、夢なんだかよくわからなかった日々を過ごしていた。ああ、夢ならいいのに。

§

 あいつって書いたけど、どっちのことだかわかんないな。まあいいや、どっちもクソはクソだ。いや、よくない。それって、あのクソ野郎に犯されてるってことじゃ……。もう、死にたい。
 あの女が、「髪の洗い方は先生直伝なの」と言ったのを思い出して、丸刈りにでもしてみたくなった。しかしながら、毛根を消すことはできない。

 いや、もう、いいかな。次にあいつらのうちのどちらかが来る前に、私はこの世を去ることにしよう。これ以上、あいつらに苦しめられたくない。

 サヨナラ、現世。こんにちは、来世。あるいは、別の世界。地獄でも、こんなにつらい世界ではないはずだ。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 「おはよー。朝ご飯作ったよ。」
瑚子さんの声が聞こえた。「おはよー。」と私も返す。ああ、とんでもない悪夢を見ていた。あんな長い悪夢が存在するのか。あー、ビックリ。夢の最後で切腹って、よっぽどでしょ。刺さる瞬間に目が覚めたんだよ?あー、大丈夫かな、私。夢診断だとなんだったっけ、切腹。ま、いいや。瑚子さんに抱き着こう。
  
 今日の朝ご飯も美味しかった。あれ?昨日の朝ご飯はなんだったんだっけ?思い出せない。まあ、いいか。あー、瑚子さんに抱き着くと落ち着くんだよなー。

 はー、人生幸せ。



 どーしよどーしよ。夢が叶っちゃった。そのまま死んじゃいたいくらい幸せだった。でも、明日はもっと幸せ。



君と出会う前の あの日の 僕は偽りの世界-記憶-に
奪われた宇宙観-世界観- 全てをあの日破壊-リセット-した 
傍にあった幸せは 僕を縛り付けていた
創り出すよ新しい未来-自分-を そう君となら きっと

 好きな曲のサビの歌詞。なんで、世界を記憶と、未来を自分と読ませたりするんだろう?この作詞家さん、謎だなぁ。もっと深く知ってみたい。でもなぁ、情報が表に出てこないんだよなぁ。たぶん、女性だろうな。ペンネームは男性っぽいけど、それなら、たぶん表に出てきてインタビューとか受けるだろうから。

 でも、何かを隠さないといけないような事情があるのだろう。昔、犯罪でもやったのかなぁ。うーん。会ってはいけない種類の人なんだろうな。まあ、私には瑚子さんがいるし、いいや。瑚子さんがいるのに、他の人に会っちゃいけない。せっかく瑚子さんが居心地の良い空間を作ってくれてるのに、外になんて出ちゃいけない。外に出ちゃダメって瑚子さんが言ってくれるんだし、瑚子さんの匂いがするベットにずっといよう。



 瑚子さんは、とってもキス上手なんだよ。でも、他の人はその感触を一生知らない。元彼だか元カノだかはたくさんいるんだろうけど、今は独り占め。うれしい。



 瑚子さんの髪の触り心地、最高。ずっと触っていたい。瑚子さんがもし先に死んじゃったら、髪だけでも取っておきたいな。でも、最後は一緒に死にたい。



 おねしょをしてしまった。瑚子さんは黙って片付けてくれた。お母さんだったら、すっごく怒ったのに。優しい人と同居できてよかった。あれ?お母さんって、どんな人だっけ?どんな顔だっけ?



 やることが無い。瑚子さんが仕事に行ってる間、何もすることが無い。瑚子さんが時々篭もる部屋は、鍵が掛かっている。
 
 そういえば、お腹の傷が時々痛む。瑚子さんによれば、人に刺された時にできた傷らしい。その時に頭も殴られていて、それで記憶が抜け落ちているのだとか。奇跡の生還だったらしい。
 私は、どんな人に刺されたのだろう?


 ひざまくら。うれしい。


 一緒にお風呂。添い寝。うれしい。肌が綺麗って褒められた。瑚子さんの肌も綺麗なんだよ。大好き。


 おかしい。瑚子さんがぐったりしてる。私のひざまくらで寝てもらったけど、あんまり休めてなさそう。肩をもんだら、喜ばれた。私のひざまくらは、嬉しくなかったんだな。残念。何をやったら、よろこんでくれるかな。


 あの長い夢が、夢でなかったような感触がする。傷がそう言っている。でも、それなら誰が。

 怖いから、瑚子さんに抱き着いた。疲れてるのに、ごめんね。
 

 目が覚めたら、隣に瑚子さんがいる。今日は、瑚子さんが一日中空いてる日。お仕事の日以外は、ずっと家にいる。どこか行きたいところは無いのだろうか。一緒にどこかに行きたい。でも、私を外に出したくないみたい。なんでだろう。なんでだろう。なんでだろう。


 瑚子さんがどうやったら喜ぶのか、サッパリわからない。どうしよう。


 瑚子さんが出掛けた後、あれこれと探してみた。今日は秘密の部屋の鍵が空いている。開けてみた。
ここから先のことは、書かない。あれが夢でなかったことだけ、わかった。つらい。


 あの時の私と、今の私が、繋がってしまった。問題は、どうやって、「私が気付いてしまったこと」を、瑚子さんに隠し通すか。無理だ。窓に映る私の顔が、変わった。

 どうしよう。

§

 瑚子さんが帰ってくるなり、抱き着いた。離したくないし、離せなかった。そして、何かを察した顔をしていた。バレていないだろうか。何を察したのだろうか。
 そして、キスの味が苦かった。ごめんなさい。でも、私はどうにもできない。瑚子さんを解放してしまったら、私はもう生きていけない。人生を辞めないといけない。今度こそ、本当に死んでしまうだろう。私はそれでも良いけれど、瑚子さんはたぶん困る。
 瑚子さんに罪悪感を感じさせず、なおかつ、瑚子さんを解放し、そして、私が生き残る。その道を辿るためには、私は私の中の何かを変えないといけない。今の私には無理な話だし、未来の自分にもたぶんできないだろう。それができるなら、こんなことにはなっていない。

 私が持っていた望みを叶える方法が、死にかけることだった。それ以外に方法が存在しなかった。意図していないとは言えど、瑚子さんの罪悪感に付け込むようなことをしてしまった。

 私は結局、私でしかない。


§

 瑚子さんは、あのインチキ占い師が書いていた文章も持っていた。私とのやり取りを記録しておいた文章。懐かしく思うと同時に、その過去を消してしまいたい。奴が本当に悪人だったのか、私にはわからない。それでも、早く諦めるように奴が言ってくれていれば、こんなことにはなっていない。間違い無く。
 罪悪感を消せるならどうするか。何をするか。そして、何をしたいのか。この手の話を、奴が小説の授業という体で話していたのを思い出した。やっぱり、私には何もわからない。奴もたぶんわかっていない。わかっていないことをさもわかったかのように話す。それが奴だ。

 小説家というのは、そういう人種だ。

 奴は、「わかったと思った時が一番わからなくなっている時だ」とも言っていた。それでも、わかろうとするのを辞めるのはよくないことだろう。しかしながら、私もまた、わかろうとするのを辞めようとしている。私も奴も、きっと同じ。いや、奴は……。


§

 瑚子さんの下着を漁っていた。ここを出るとしたら、少しは持っていきたい。一番安いのは、どれだろう。そう思いながら、3枚くらい。畳みながら、こんなに丁寧に私が動けるのかと、驚いた。どれが安いのかはわからなかったから、古くなっているものを選んだ。どうせ、捨てられてしまうのだからと、自分に言い聞かせながら。

§

 この文章、瑚子さんに読まれたらどうしよう。

§

 瑚子さんの怯える顔、かわいい。そう思いながら、快楽に浸っていた。悪いことをしたとは思っている。でも、フェードアウトなんてしたくなかった。瑚子さんの中に何かを遺したい。私が生きているうちに。
 この記憶が消えるとしたら。いつだろう?

§

 なんで瑚子さんが、母の親友なのだろう。

§

 数日間、瑚子さんとの会話は、どこか他人事のようだった。お互いに、新しい傷を作った。お揃い。

§

 心中。美しいなぁ。私も瑚子さんと心中したいけど、でもなぁ。迷惑だよなぁ。どうやったら、愛してもらえるんだろう。

§

 瑚子さんと離れた後の人生を想像してみる。そういえば私、一回切腹してるんだよな。刃物を手に取ったところまでは覚えている。いや、最近思い出した。あの時に死んじゃえばよかったのに、助かって、そして、瑚子さんとの同居が始まって。たくさんキスして、たくさん抱きしめてもらって。指を挿れてもらって。挿れた時のことは……。無かったことにしたいけど、もう一度やりたい。

§

 なんで、同居してくれているんだろう。最初のうちは、たぶん罪悪感とかそういうのだと思う。でも、なんで今も。
 私が瑚子さんの前でまた切腹したら、なんて言うんだろう。嫌だ。


§

 瑚子さんが、目を合せてくれない。

§

 瑚子さんが、目を合せてくれてくれた。嬉しい。

§
 
 瑚子さん大好き。

§

 この文章、見られてる。わかっちゃった。抱き締めてもらえたから、いい。よくないけど。

§

 瑚子さん、ごめんね。

§

 奴らの言葉を思い出した。私が求められてる場所もあるんだなって思うけど、そんなの嬉しくない。瑚子さん以外のものが、全部邪魔に見える。瑚子さんが大事にしてるマグカップすら、私の敵。でも、瑚子さんが悲しむから、割ったりしない。私、偉い子。

§

 ”傍にあった幸せは 僕を縛り付けていた”だっけ。あの曲。はぁ。酷いこと言うもんだな。私はもうやだ。わかってるよ。傍にある幸せが作り物だって。哀れみでできた偽物だって。愛されていないんだって。こんな子と一緒にいたくなんてないんだって。
 
 私は結局、私でしかない。私だもん。私。もう嫌だ。

§

 瑚子さん、勘が鋭い。「私のこと、好きにして」だってさ。そういうのがもう、嫌なの。求められたいの。そして、嫌なのに、甘えちゃう私が嫌なの。
 
 瑚子さんの中に快楽があるのも知ってる。知ってるよ。見りゃ解るよ。なんだっけ、ミホとかいう奴と同じ顔してるから。だけど、違うんでしょ。そんな表向きのモノを追い掛けてるんじゃない。本当の意味で愛し合いたいんだって。

 無理だな。私だもん。


§

 瑚子さんがこれを読んでるの、忘れてた。泣いてた。ごめんね。ごめんってば。許してよ。

 許されるわけ無いか。私は、私でしかないから。


§

 瑚子さん以外の人を好きになれたら、ラクになれるんだろうな。でも、そんなの嫌だ。絶対に。


§

 瑚子さんから女性を紹介された。お相手してみたけど、つまんなかった。気持ち良いだけなら、ミホとかいうクソ女でいいんだって。でも、気持ち良かった。快楽は凄かった。でも、違う。違う。絶対に、違う。


§

 瑚子さんが見てるんだし、瑚子さんに向けて書こう。と思ったけど、好きしか言えない。大好きだし愛してるし、一緒にいたい。あとは、なんだろう。ごめんなさい。許さなくていいから、傍に居させてください。お願いします。嘘でも、同情でも、哀れみでも、なんでもいいから、傍に居させてください。

 そして、こんな私で、ごめんなさい。


§

 怒られた。「莉瑚ちゃんのことは好き。でも、心の準備がまだできてないだけ。好きになってくれる人に対して、そんなこと思わせたくないけど、でも、身体がついてこない。だから、待って。」

 その瑚子さんの言葉すら、信じられなくなってしまった。だって、私だよ?私。やっぱり、私から去るしかないんだ。そうだ、きっと。

§

 荷造りしてたら、抱き締められた。汗につられて、襲ってしまった。しょうがないじゃん。好きなんだもん。でも、好きだからこそ、我慢しなきゃいけないんだよな、本当は。本当は。

 でも、なんだか瑚子さんの様子がおかしかった。快楽のど真ん中でキスを求められたのは、はじめてだ。たぶん。いや、たぶん、勘違いだ。


§

 瑚子さん、いなくなっちゃった。いなくなって、1ヶ月。その間、私はずっと、布団に篭っていた。記憶を振り返り、快楽を思い出したり、虚しくなったり。あの優しさは何だったのかと考えたり。自分の人生の意味を考えたり。

 でも、今回は切腹しようとか、そういうことは一切考えなかった。私が死んでも、瑚子さんを困らせるだけだってわかったから。

 そう言えば、私の元の部屋、今どうなってるんだろう。まあ、大した物は置いてないから、いいけど。いや、望帆とかが漁ってたら、嫌だな。特に、あのインチキ占い師とか……。ああ、嫌だ嫌だ。
 でも、私は生きよう。と思ったけど、どうしようかなぁ。お金は何故か置いてあるし。まあ、買い物でもしよう。

§

 「ああ、その曲作ったの、俺なんだよね。」と、悪いタイミングでアイツと遭遇した。リハビリがてら、歌いながら歩いていた時のこと。記憶喪失中の私がよく聴いていた曲。
 「何の用?」と返して、「いや、俺の曲が君に気に入ってもらえて嬉しいなと思って」と。私は嬉しくない。なんでアンタが、と思った時に、「瑚子さんが今どうしてるか、気になる?」と訊かれた。
 
 私は走り去った。

§

 そういえば、瑚子さんの写真とか、無いんだよなぁ。撮るチャンス、あったはずなんだけど……。あーあ。服とか下着とかはたくさんある。お気に入りをいくつか選んで、そのまま置いて行ったんだろうな。匂いだけでも、私は少し満足できてしまった。ああ、欲って、こんなに少なくなるんだな。
 いや、麻痺しているだけだ。あーあ。

 それにしても、1ヶ月も文章を書かなかったわけだけど、書くって、なんというか、自分を呪う行為のような気がする。そういえば、アイツも「言葉の魔力」の話をしていたなぁ。ああ、嫌だ。知らないもん、そんなもの。
 
 
 
 
 

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